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西村和子第六句集『椅子ひとつ』
2015/1/23刊行

六句集。平成21年~26年までの作品を収める。俳句の縁に導かれ、思いのままに旅をし句作を重ねられる幸せを詠む。「家にあっても旅先でも、今は私にひとつの椅子があれば足りる」。

風鈴やふたり暮しのひとり欠け
ふたり四人そしてひとりの葱刻む
春暖炉見つめるための椅子ひとつ
からまつの芽吹きの昨日さらに明日
その窓は風を聴く窓緑さす
日々落葉みづうみ神へ返すべく
図書館の冬の匂ひを今も愛す
我が城を彼処と定め蜃気楼
灯涼しエッフェル塔を編み出して
つたうるしもみぢ木の間に頒巾振るは
柚子ひとつ渡す言葉を託すごと
光荒削り春潮逸るとき
(自選12句)

安倍川翔句集『今と決め』
2014/10/8刊行

熱燗や女盛りを今と決め

この一句に翔さんの心意気と潔い決断力がこめられている。
句集出版は、その「今」の記念だ。
今を大切に見のがさず、聞きのがさずに把えた人生のひと齣ひと齣は、
私たちの五感を大いに刺激してくれる。
西村和子(帯文より)

春昼のハーレムの辻乾きたる
草を刈る瞳の濃くて蜥蜴追ふ
生ビール星占ひを信じてる
かき氷ブルーハワイといふブルー
無表情くづれて涙心太
八月の島影ふつと消えにけり
十六夜や父の部屋その日々のまま
麦秋やふたりでひとつ旅鞄
女にも遊び心や日脚伸ぶ
永き日の二月堂より暮れにけり
(自選十句)

井出野浩貴句集『驢馬つれて』
2014/9/21刊行

◆第一句集

マフラーの緋を見送りしより逢はず

作者の胸裡のドラマティックな青春性とのきっぱりとした決別。

自転車でどこまでもゆく夏休

少年のように、がむしゃらに未知を志向するこころ。

いつかてふ日は訪れず鰯雲

いさぎよい覚悟は諦念にも通じる。

それらが三位一体となって展開してゆく、
井出野浩貴の俳句ワールドだ。

(帯より・行方克巳)

◆自選12句
鉄橋のしづまり雲雀野にひとり
卒業す翼持たざる者として
夜桜の星へ旅立つかもしれず
グローブのオイルの匂ひ五月来る
冷奴ゆづれざることひとつ失せ
夏帽子選びてよりの旅ごころ
眠る子の膝にかさぶた天の川
葡萄売る石の都に驢馬つれて
この道の行く先知らず鰯雲
そのかみの密使の如く落葉踏む
聖樹の灯一番星に先んじて
冬の星一病を身に飼ひ馴らす

行方克巳・西村和子共著
『名句鑑賞読本 藍の巻』
2014/6刊行

代表俳人25人250句に見る人間ドラマ、時代背景を確かな鑑賞眼で解く。
俳句は一瞬の直感を写実的に表現する最短定型詩。作品の長所を指摘しつつ、25人の俳人の生きた時代と人生を、二人の著者がそれぞれ違った視点から読み解く。愛誦句をもつことの幸せを説く鑑賞と実作の手引き。

江口井子句集『海渡る蝶』
2014/1/15刊行

東西古今の文芸に心を遊ばせ、
旅に料理にお洒落に五感を磨き、
常に仲間の先頭切って歩む素敵な女性。
外界への視野はさらに幅広く、
内面への凝視はいよいよ深く、
第三句集に至って人生の本音があかされた。
俳句の恩寵もさることながら、
真の贅沢とは何かを教えられる句集。
西村和子(帯文より)

パイ焼かん卓の林檎のよく匂ひ
海渡る蝶のごとくに真葛原
蜆舟二葉泛べて嫁が島
耕人に尋ね神魂の社みち
朝焼のユングフラウをわが窓辺
ひとり居の少し紅濃く初鏡
盲ひゆくごとく虫の音細りゆく
教へ子も今はともがら初句会
秋深し男女の機微に疎けれど
レースまとふ今ひとたびの贅もがな
(西村和子 選)

千葉美森句集『句の旅』
2013/10/25刊行

俳句大好き人間の美森さん
今日もいそいそと吟行の旅へ出かけて行く。
そしてその心の中にはいつも御主人がゐる。
五七五の旅を終ると美森さんはまたいそいそと家に帰ってゆくのである。
行方克巳(帯文より)
首から顔顔から首へ汗拭ふ
夕月や一升瓶に薄活け
絹莢の色そのままに卵とぢ
滑走路灼けふんはりと着陸す
旅にして夫の声なき朝寝かな
左手で出来ることして冬に入る
三日はや手持ち無沙汰やミシン踏む
剪定のひと声かけて枝落とす
もてなしの頃合嬉し夏料理
止まるまで待てばわが手に赤蜻蛉(行方克巳 選)

高橋桃衣 句集『破墨』
2013/6/30刊行

含み笑いする通草、雨を呼ぶ枇杷、えらそうな鶏頭、
不機嫌な山、積もる月光、逸筆が描いた造化の様相。
ガラスを磨く月光、流れゆくビル、音痴な信号、
銀河まで響く靴音、詩ごころと機知が把えた都会の一刻。
虫籠とワインバー、銭湯とファゴット、伝統と現代の配合。
あらためて自然と生活を見直したくなる句集。
西村和子 (帯文より)

きしきしと月光がガラスを磨く
虫籠を鏡の前にワインバー
木枯や母の繰言呪文めく
信号のメロディ音痴春の昼
鶏頭はえらさうな花鈍な花
野次馬へ風向変はる近火かな
冬麗の富士不機嫌な伊吹山
渇筆の様に流れし星ひとつ
栗の毯踏む踏む心晴れるまで
華奢といふ文字ははなやか一葉忌
土地を売る机一つや梅雨晴間 (本書より)

西村和子著『季語で読む枕草子』
2013/4刊行

和歌の世界の先入観や類想に囚われることなく、春、夏、秋、冬、ただ過ぎに過ぎゆく折々のおもむきの粋を、簡潔な文章で書きとめた清少納言の「枕草子」を、季語という視点から読み解く。

目次

小豆粥―新年最初の望月
雪―香爐峯の雪
雪解け―残雪をめぐるやきもき
春は曙―日本人の美意識
紅梅―行成も認めた才気煥発
雪月花―当意即妙
桜の造花―関白道隆の趣向
花盗人―機知に富む応酬
桜襲―幸福の絶頂
春の炉―誤解を解いたわざ〔ほか〕

小林月子句集『見返り峠』
2013/1/25刊行

甘んじて仕事人間啄木忌 月子
月子さんは何事にも一途で真っ正直な人だと思う。
「仕事人間」は、その一面である。
婿さんは馬鹿か利口か初笑 月子
そして、俳句という表現方法を手に入れたことで彼女の人生に、
ゆとりと楽しさが加わってきた。
「婿さん」に対する暖かい視線が、それである。
行方克巳(帯文より)

真ん丸の目をして木の実見せにけり
パソコンてふ化物を飼ひ梅雨寒し
ビール酌む夫の友達好きになり
歩くより遅い駆けつこ天高し
我が娘ながら水着のまぶしさよ
枯野行く黒犬のまだついて来る
春眠や覚めて物音一つなく
婿さんは馬鹿か利口か初笑
防人の見返り峠日脚伸ぶ
冷房を入れぬラーメン屋の団扇
甘んじて仕事人間啄木忌
おでん酒男も人の噂ばかり(行方克巳 選)

天野きらら句集『ウェルカムフルーツ』
2013
/1/13刊行

料理が得意な人は俳句も上手い
ありふれた材料の本質をよく知り
切りこみと切り取りが鮮やか
味付けに工夫がこらされ
仕上りも手際よく勢いがある
伝統を我がものにした上で
時には冒険もする
スパイスをぴりりと効かす
美味しいものを味わうように楽しめる句集
西村和子(帯文より)

春の馬水の力を得て跳ねよ
の腰に剣を佩く構へ
秋風や見知らぬ人に手が触れて
板チョコが食べたくなりぬ秋の空
紙燃やすほどの静けさ春の雪
瞼なき魚も眠れる春の雨
おーんおーん耳成山も青嵐
赤い秤青い秤やべつたら市
ラガーらの下唇が息を吐く
海の話してくれさうな大夏木
電線の傾いてゐる田植かな
からつぽの空を仰いで啄木忌(自選12句)