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大塚次郎句集『揺るぎなく』
2012/9/27刊行

科学の知性と、俳句の感性。
教師の視線と、父親のまなざし。
まだ若い心と、すでに若くはない思い。
思いきった見たてと、老練な表現。
その豊かな幅は読む者を大いに楽しませてくれる。
西村和子(帯文より)

そら豆しかないそら豆があればいい
公魚やひかりが音をたててゐる
寒鯉の黒糸縅揺るぎなく
足跡の先に吾子ゐて秋の浜
山頂に生徒を数ふ雲の峰
吐く息をひとかたまりにラガー組む
縋るとも慈しむとも秋の蝶
受験子のマスクの四角張つたまま
雪渓の鱗あらはに横たはる
かさぶたになりかけてゐる冬夕焼
半袖をさらにまくつて運動会
満開の躑躅の色に疲れけり (本書より)

原田章代句集『遊』
2012/7/19刊行

この句集を原田芳雄に捧げます。―とあとがきにある本書は、一周忌に向けて上梓されたもの。五・七・五に込められた日記のような句集です。題字・写真・画は原田芳雄によるもの。

 

黒木豊子句集『雛あかり』
2011/1/15刊行

豊子さんの俳句には、雛の間のほの明りにも似た
やさしさと華やかさ、そして凛としたきびしさがある。
それは、彼女の人となりから自ずと醸し出される魅力なのだろう。
行方克巳 (帯文より)

蝌蚪の尾の生き抜く術を知つてをる
面差しのよく似て男雛眉の濃し
鶯にマイクロフォンのつけてある
十薬の涙のごとき莟あげ
蝉時雨暑を掻き立ててゐるごとし
扇づかひ時にせはしくゴヤを見る
歩みふと止め空蝉となりたるか
吹き溜りあれば馳せ来る落葉かな
カーテンを開けて貰ひて秋惜しむ
納め句座明日より主婦に徹すべく (自選10句)

馬場繭子句集『芽吹』
2010/9/28刊行

屈託のない無邪気な第一句集は、
俳句が幸福の文芸であることを思い出させてくれる。
美しいもの、美味なるもの、気に入りのものに囲まれて俳句を楽しむ姿は、
読む者の心をも明るく満たしてくれるだろう。
西村和子 (帯文より)

春燈や巴里の寵児の絵の暗く
一掻きの青海亀の涼しさよ
咲き初めて小心ならず冬の薔薇
にごりなき血の色のとんぼうに遇ふ
ためいきも華やぎにけり投扇興
初句会西洋畏るるに足らず
そら豆の莢にムーアの括れかな
父の日や彼のライバル今も父
初雪の予感ぴりつと唇に
寒紅や後の心を引き締めむ(自選10句)

金子笑子 句集『雪舞』
2010/9/23刊行

数へ日の本腰入れて雪の降る 笑子
老神温泉はなつかしく心安らぐ出湯である。
『雪舞』の作者笑子さんは、その老神を象徴するような人だと思う。
女将としての笑子さんにとって、雪はしたたかで、
あなどれぬ存在だろう。
しかし、一方ではその雪が、彼女に老神の風土に根ざした
多くの作品をもたらした。
行方克巳 (帯文より)

蛇神輿舁くといふより集りをり
板長の怒鳴つてをりぬ二日はや
初旅の夫の寝付きよきことよ
面白き程よく眠り風邪癒ゆる
数へ日の本腰入れて雪の降る
誰も居ぬ二階に音や雪の夜
お決まりのごとく四日の大雪よ
冴返る自問自答を繰り返し
あたたかや赤ちやん一人居るだけで
踊の輪立て直しつつ踊りけり (行方克巳 選)

鈴木淑子 句集『震へるやうに』
2010/6/16刊行

二十代の本音と呟き。
幼なさの揺曳も、早熟な感慨も、みずみずしい感性も、ひたむきな思いも、
変身を待つおののきに震えている。
ひらかれた俳句の扉から飛びたった言葉のひとつひとつが眩しい句集。
西村和子 (帯文より)

夏空を駆け上がるやうにして別れ
赤ちやんの口もと美人小鳥来る
時雨るるやのつぺらぼうのガーゴイル
しやぼん玉噴き上げパレードの鯨
心臓の震へるやうに蝌蚪泳ぐ
母さん母さんとくつついて軽鳧の子
まつすぐになんかなれないバレンタイン
飛びたくて飛びたくてむささびの進化
寒夕焼こんなカクテルあつたかも
春埃仕舞ひきれないものばかり (自選10句)

小沢麻結句集『雪螢』(ゆきぼたる)
2008/6刊行

◆ 第一句集
雪螢とはまことに
あえかなる存在である
しかし、その小さないのちには
思いがけない強さがある
ピーター・パンの冒険心と
ニンフの若々しさをあわせ持つ
作者の詩ごころが
『雪螢』一巻の随処に
ちりばめられている 
(行方克巳)

「月探す表参道交差点」都会の賑やかな交差点で、信号を待ちながら、或いは歩いている途中でも、ふと月を探す。その思いは日常に詩を求める思いに似ている。雑踏の中の一人でありながら、中空の月を心に持つ時、人は句ごころを胸に抱く。
(西村和子)

◇行方克巳選
もう前も後ろもなくて芒原
元気あとは山の絵の暑中見舞
日本も寒いらしいねと初便
かはい気のなくて結構春の風邪
葉桜や眩しげに訳聞かれたる
目覚めても目覚めても夜風邪の床
踏ん張つて蜥蜴の尻尾再生中
約束を悔やむ手袋なきを悔やむ
月探す表参道交差点
式典の空も会場原爆忌