コンテンツへスキップ

津田ひびき句集『街騒』(まちざい)
2018/2/3刊行

◆第二句集
バス停にバス待つやうに春を待つ

第一句集『玩具箱』
〈ふしだらといふ香水のあらまほし〉から、
さらなる新境地へ。

◆行方克巳抄出
誤診なら笑つて許す油照り
肉滅ぶごと鶏頭の朽ちにけり
バス停にバス待つやうに春を待つ
木馬にも銀のたてがみ風光る
裏窓も大阪の貌秋暑し
添ひ遂げるとは嗚呼けふも葱刻む
春色の海のしづくのピアス欲し
初夏や磨けば光る鍋やくわん
街騒の猥雑にしてあたたかし
蛇穴に入る母さんの胸豊か

前山真理句集『ヘアピンカーブ』
2017/12/30刊行

◆第一句集
雪竿ののぞくヘアピンカーブかな

「だいじょうぶか?」
「しっかりね!」
とヘアピンカーブからのぞいている雪竿は
真理さんに最も近しい応援団のご両親の声かも知れない
もちろん私もその一人――。
向後も真理さんらしい写生の味をいっそう深めていって欲しいと思う。
(帯より・行方克巳)

◆行方克巳抄出十句
さよならと言はずまたねと卒業子
春の鴨水面の綺羅を引つぱれる
旋盤の音のひきつる秋暑かな
見守るといふは難し葱刻む
梅雨の蝶草の匂ひを嗅ぎ分けて
雪しまきドイツトウヒの森を消し
父の忌の空を仰げば初燕
どこからも狙はれさうな巣箱かな
朝桜父の忌の母おしやれして
夢を見て糞して河馬の日永かな

志磨泉句集『アンダンテ』
2017/8/26刊行

◆第一句集
上手く笑へず上手く怒れず初鏡

泉さんの自画像である
それは、人間関係における
自己表現のむずかしさ――
しかし彼女のうちに備わった
音楽性は その俳句作品に
独自のリズム感をもたらしている
(帯より・行方克巳)

◆自選十句
視程五マイル初凪の地中海
上手く笑へず上手く怒れず初鏡
実朝忌ことばの力疑はず
一頁手前に栞春灯
吾子に買ふ片道切符風光る
南風を味方につけて棒倒し
帰省子のまづ弟のことを問ふ
同じことまた問ひかけて墓洗ふ
妬心とはかういふかたち曼珠沙華
あれが君さう決めて見る寒オリオン

小野桂之介句集『蝸牛』
2017/8/8刊行

学者であり教育者である顔とはちがう、表現者の表情。
夫であり父であり祖父である温和なまなざしとは別の、キラリと光る鋭い視点。
何事もてきぱきとおこたりなく進める有能な行動に、時折覗く諷刺と茶目っ気。
作者を知る人も知らぬ人も、読めば読むほど味わいの増す句集。
(帯より・西村和子)

◆西村和子選十句
ハンカチで煽ぐのんどの白さかな
一掻をがしやりと注ぎぬ蜆汁
鮎宿の壁行灯の女文字
長き夜やこのごろ妻の鼻眼鏡
席蹴つて赤き手袋わしづかみ
居眠るがごとし学者の初仕事
登校子悴む指を食らひけり
振り向いて小さく手を振り春の風
ダメといふことばかりして七五三
幕上がり奈良岡朋子毛糸編む

高橋桃衣集 
自註現代俳句シリーズ 12期21
2017/6/20刊行

ラムネ飲む釣銭少し濡れてをり
ファインダーに入り切れない花野かな
水底の空を駆け抜け寒鴉
ハンカチーフきつぱりと言はねばならず
いつまでもルオーに佇てる冬帽子
きしきしと月光がガラスを磨く
土地を売る机一つや梅雨晴間
シュレッダー紙食べつづけ夜長し
いつ見ても誰が描いてもチューリップ
新酒酌む句友といふはありがたく

廣岡あかね句集『りつしんべん
2016/12/25刊行

◆第一句集
悴みて立心偏のゆがみたり

あかねさんの句には随所に女性としてのこまやかで、やさしい心遣いが見られる。しかし、その心奥にはなかなか強いものがあり不可とすることには決して折れない心意気があるようだ。じっと何かに耐えるとき立心偏がゆがむのもそのためであろうかと思う。
(帯より・行方克巳)

◆行方克巳抄出
ゆたんぽを撫でて叩いて買はずに行く
いそいそと若手歌舞伎に春着の娘
つづら屋に膠の匂ひ竹簾
今日の白画布に足しけり花辛夷
木の芽風子は靴下を脱ぎたがる
春の雪降れ降れ用のなきひと日
春浅しカナリア色のエレキギター
剪定の梯子からから伸ばしけり
薔薇の鉢贈られ薔薇の本を買ふ
ギターケースに百円玉千円札落葉

中野のはら句集『象のうた』
2016/11/25刊行

◆第一句集
大阪が好きで嫌ひで蝉しぐれ
のはらさんのくったくのない俳句が私は好きだ。

銀杏枯れもうええやろと父逝きぬ
「もうええやろ」とは看取られる者の本音でもあり、感謝でもある。

終弘法ただでも要らぬ物も売り
一つの方向に固まらず、これからも自由にしかもつきつめた句を読み続けていって欲しいと思う。
(帯より・行方克巳)

◆自選十句より
寒灯を消させて父の身罷りぬ
うららかや象を見ながら象の歌
そこら中たんぽぽそこら中古墳
ポケットをあたためてゐる木の実かな
ショッキングピンクの春のショール欲し
何か言ひたくて黙りぬ梅真白
雲水の寒林を出で来たるごと
我を待ちくるる人ゐて冬あたたか
さりながら残花といふは痛々し
はつ夏の人見るためのカフェテラス

松枝真理子句集『薔薇の芽』
2016/09/22刊行

◆第一句集
ぐらぐらの歯を自慢してチューリップ
やがて
キャンプから帰りてもまだ歌ひをり
そして
マフラーを後ろできゆつと結ぶ子よ
お母さんと一緒にここまで成長してきた女の子は、これからは一人の女性として自分自身の道を歩み始めるだろう。そして園子と足並を揃えてきたお母さんには新しい地平が見えてくるはずだ。『薔薇の芽』に続く真理子さんの俳句の展開を見守ってゆきたい。
(帯より・行方克巳)

◆行方克巳抄出十句
亀の子の手足てんでんばらばらに
脇見してにこにこ走り運動会
マフラーを無理矢理巻いて送り出し
帰り来て遠足の地図辿りをる
人見知りしても人好きさくらんぼ
浴衣着て甘え上手になりにけり
凍星や悔し泣きの子誉めてやる
秋蝶の芝すれすれにすれ違ひ
赤ちやんがこんなにゐるよ秋日和
五十メートルとぶよと飛蝗見せくれし

栗林圭魚著 『季題拾遺』
2016/1/10刊行

「拾遺」とは、歳時記からあふれ出たあれこれを拾い補うことであると同時に、
季題の「周囲」の世界を展開し解明することでもある。
知的好奇心旺盛な俳句愛好家必読の本。
知っていたはずの季題の意外な側面が見えてくる。
まず、今の季節から読み始めよう。(西村和子氏推薦)