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井出野浩貴句集『驢馬つれて』
2014/9/21刊行

◆第一句集

マフラーの緋を見送りしより逢はず

作者の胸裡のドラマティックな青春性とのきっぱりとした決別。

自転車でどこまでもゆく夏休

少年のように、がむしゃらに未知を志向するこころ。

いつかてふ日は訪れず鰯雲

いさぎよい覚悟は諦念にも通じる。

それらが三位一体となって展開してゆく、
井出野浩貴の俳句ワールドだ。

(帯より・行方克巳)

◆自選12句
鉄橋のしづまり雲雀野にひとり
卒業す翼持たざる者として
夜桜の星へ旅立つかもしれず
グローブのオイルの匂ひ五月来る
冷奴ゆづれざることひとつ失せ
夏帽子選びてよりの旅ごころ
眠る子の膝にかさぶた天の川
葡萄売る石の都に驢馬つれて
この道の行く先知らず鰯雲
そのかみの密使の如く落葉踏む
聖樹の灯一番星に先んじて
冬の星一病を身に飼ひ馴らす

江口井子句集『海渡る蝶』
2014/1/15刊行

東西古今の文芸に心を遊ばせ、
旅に料理にお洒落に五感を磨き、
常に仲間の先頭切って歩む素敵な女性。
外界への視野はさらに幅広く、
内面への凝視はいよいよ深く、
第三句集に至って人生の本音があかされた。
俳句の恩寵もさることながら、
真の贅沢とは何かを教えられる句集。
西村和子(帯文より)

パイ焼かん卓の林檎のよく匂ひ
海渡る蝶のごとくに真葛原
蜆舟二葉泛べて嫁が島
耕人に尋ね神魂の社みち
朝焼のユングフラウをわが窓辺
ひとり居の少し紅濃く初鏡
盲ひゆくごとく虫の音細りゆく
教へ子も今はともがら初句会
秋深し男女の機微に疎けれど
レースまとふ今ひとたびの贅もがな
(西村和子 選)

千葉美森句集『句の旅』
2013/10/25刊行

俳句大好き人間の美森さん
今日もいそいそと吟行の旅へ出かけて行く。
そしてその心の中にはいつも御主人がゐる。
五七五の旅を終ると美森さんはまたいそいそと家に帰ってゆくのである。
行方克巳(帯文より)
首から顔顔から首へ汗拭ふ
夕月や一升瓶に薄活け
絹莢の色そのままに卵とぢ
滑走路灼けふんはりと着陸す
旅にして夫の声なき朝寝かな
左手で出来ることして冬に入る
三日はや手持ち無沙汰やミシン踏む
剪定のひと声かけて枝落とす
もてなしの頃合嬉し夏料理
止まるまで待てばわが手に赤蜻蛉(行方克巳 選)

高橋桃衣 句集『破墨』
2013/6/30刊行

含み笑いする通草、雨を呼ぶ枇杷、えらそうな鶏頭、
不機嫌な山、積もる月光、逸筆が描いた造化の様相。
ガラスを磨く月光、流れゆくビル、音痴な信号、
銀河まで響く靴音、詩ごころと機知が把えた都会の一刻。
虫籠とワインバー、銭湯とファゴット、伝統と現代の配合。
あらためて自然と生活を見直したくなる句集。
西村和子 (帯文より)

きしきしと月光がガラスを磨く
虫籠を鏡の前にワインバー
木枯や母の繰言呪文めく
信号のメロディ音痴春の昼
鶏頭はえらさうな花鈍な花
野次馬へ風向変はる近火かな
冬麗の富士不機嫌な伊吹山
渇筆の様に流れし星ひとつ
栗の毯踏む踏む心晴れるまで
華奢といふ文字ははなやか一葉忌
土地を売る机一つや梅雨晴間 (本書より)

小林月子句集『見返り峠』
2013/1/25刊行

甘んじて仕事人間啄木忌 月子
月子さんは何事にも一途で真っ正直な人だと思う。
「仕事人間」は、その一面である。
婿さんは馬鹿か利口か初笑 月子
そして、俳句という表現方法を手に入れたことで彼女の人生に、
ゆとりと楽しさが加わってきた。
「婿さん」に対する暖かい視線が、それである。
行方克巳(帯文より)

真ん丸の目をして木の実見せにけり
パソコンてふ化物を飼ひ梅雨寒し
ビール酌む夫の友達好きになり
歩くより遅い駆けつこ天高し
我が娘ながら水着のまぶしさよ
枯野行く黒犬のまだついて来る
春眠や覚めて物音一つなく
婿さんは馬鹿か利口か初笑
防人の見返り峠日脚伸ぶ
冷房を入れぬラーメン屋の団扇
甘んじて仕事人間啄木忌
おでん酒男も人の噂ばかり(行方克巳 選)

天野きらら句集『ウェルカムフルーツ』
2013
/1/13刊行

料理が得意な人は俳句も上手い
ありふれた材料の本質をよく知り
切りこみと切り取りが鮮やか
味付けに工夫がこらされ
仕上りも手際よく勢いがある
伝統を我がものにした上で
時には冒険もする
スパイスをぴりりと効かす
美味しいものを味わうように楽しめる句集
西村和子(帯文より)

春の馬水の力を得て跳ねよ
の腰に剣を佩く構へ
秋風や見知らぬ人に手が触れて
板チョコが食べたくなりぬ秋の空
紙燃やすほどの静けさ春の雪
瞼なき魚も眠れる春の雨
おーんおーん耳成山も青嵐
赤い秤青い秤やべつたら市
ラガーらの下唇が息を吐く
海の話してくれさうな大夏木
電線の傾いてゐる田植かな
からつぽの空を仰いで啄木忌(自選12句)

鈴木庸子句集『シノプシス』
2012/11/3刊行

シノプシスとはシナリオのあらすじ。
人生を意識した時俳句と出会った作者にとって、
一句一句は歳月の紛れもない本音。
句集は折々の思いを刻みつけた記念碑に似ている。
あるがままを、多彩に、思い切りよく披瀝した作品の数々は、
未知のシノプシスへとつながっていよう。
西村和子 (帯文より)

冬枯れの路地裏歩くことも旅
望月の真赭の道を湖にのべ
身に入むや十年留守の母の部屋
満々と水を湛へて蜻蛉の眼
白梅は錆び紅梅は褪せにけり
かたまつてゐて傷ついて青くるみ
それはもう光のかけら柿若葉
忘れ潮にも秋風のしじら波
桜えび入り海風のスパゲッティ
葱刻む後ろ姿の母は吾 (自選10句)

大塚次郎句集『揺るぎなく』
2012/9/27刊行

科学の知性と、俳句の感性。
教師の視線と、父親のまなざし。
まだ若い心と、すでに若くはない思い。
思いきった見たてと、老練な表現。
その豊かな幅は読む者を大いに楽しませてくれる。
西村和子(帯文より)

そら豆しかないそら豆があればいい
公魚やひかりが音をたててゐる
寒鯉の黒糸縅揺るぎなく
足跡の先に吾子ゐて秋の浜
山頂に生徒を数ふ雲の峰
吐く息をひとかたまりにラガー組む
縋るとも慈しむとも秋の蝶
受験子のマスクの四角張つたまま
雪渓の鱗あらはに横たはる
かさぶたになりかけてゐる冬夕焼
半袖をさらにまくつて運動会
満開の躑躅の色に疲れけり (本書より)

原田章代句集『遊』
2012/7/19刊行

この句集を原田芳雄に捧げます。―とあとがきにある本書は、一周忌に向けて上梓されたもの。五・七・五に込められた日記のような句集です。題字・写真・画は原田芳雄によるもの。

 

黒木豊子句集『雛あかり』
2011/1/15刊行

豊子さんの俳句には、雛の間のほの明りにも似た
やさしさと華やかさ、そして凛としたきびしさがある。
それは、彼女の人となりから自ずと醸し出される魅力なのだろう。
行方克巳 (帯文より)

蝌蚪の尾の生き抜く術を知つてをる
面差しのよく似て男雛眉の濃し
鶯にマイクロフォンのつけてある
十薬の涙のごとき莟あげ
蝉時雨暑を掻き立ててゐるごとし
扇づかひ時にせはしくゴヤを見る
歩みふと止め空蝉となりたるか
吹き溜りあれば馳せ来る落葉かな
カーテンを開けて貰ひて秋惜しむ
納め句座明日より主婦に徹すべく (自選10句)