セレクション俳人17 西村和子集
2004/4刊行
月見草胸の高さにひらきけり
夏シャツの胸ポケットに何もなし
若草に我がゴンドラの影進む
ウインドに映れる我等夏の雨
春暁の乳欲る声を漲らせ
泣きやみておたまじやくしのやうな眼よ
つまづきし子に初蝶もつまづきぬ
風邪の子の力なき眼が我を追ふ
気に入りのおもちや召し寄せ風邪の床
葱きざむ子の嘘許すべかりしや
粽解くにも弟の負けてゐず
蜜柑むき大人の話聞いてゐる
愚痴つぽく皹が又疼き出す
秋刀魚焼くレモンのやうな月が出て
ぜいたくは出来ぬ暮らしの柚子一つ
麦笛や夫にもありし少年期『窓』
花水木明日なき恋といふに遠し『窓』
来ればすぐ帰る話やつりしのぶ『かりそめならず』
ひととせはかりそめならず藍浴衣『かりそめならず』