夕まけて東京遠し苅田道
田中優美子
「知音」2024年2月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2024年2月号 知音集 より
「知音」2024年1月号 窓下集 より
「知音」2024年2月号 窓下集 より
「知音」2024年2月号 知音集 より
「知音」2024年2月号 知音集 より
「知音」2024年1月号 知音集 より
「知音」2024年1月号 知音集 より
朝採りのレモンも並べケーキ店
板垣もと子
国産のレモンを使うこだわりのケーキ屋さん。たくさん仕入れて使いきれなかったレモンを、店頭に並べたのだろうか。朝採りということで土地柄がわかるし、直接は言っていないが、ウィンドーに並ぶケーキも見えてくるようだ。(松枝真理子)
秋ともし褪せて千切れし栞紐
小野雅子
秋の夜に読書をする人は多いだろうが、作者もその一人。手に取った本は栞紐が褪せてちぎれてしまっているし、手ずれで少し黒ずんでいる。しかし、栞紐がちぎれるほど何度も読んだお気に入りの本だから、作者は全く気にならない。秋灯下の幸せな時間。どんな本なのだろうかと想像が広がる。(松枝真理子)
初秋や掌にのりさうな沖の船
小山良枝
小さく見える沖の船を、「掌にのりさうな」と具体的に表した。その船が実際にどのくらいの大きさかはわからないが、小さくてもはっきりと見えるのは、空気が澄んでいるから。こんなところにも作者は秋を感じているのである。(松枝真理子)
かき氷反省会の賑やかに
森山栄子
反省会というとふつう湿っぽくなりがちだが、賑やかな反省会だという。
きっと何らかの成果をおさめ、また次へつなげるための反省会なのだろう。かき氷を突きながらということで、高校生が放課後学校の近く店に集まっている姿を想像した。かき氷から想像される鮮やかな色彩も、賑やかな雰囲気とリンクする。(松枝真理子)
ふつと雨止みて音無き野分前
松井洋子
天気予報では、数日前から台風情報を伝えている。いよいよ接近してきたようなので心配で外を見ていと、降っていた雨がふと止んだようだ。窓を開けてみると、音もなく静か。嵐の前の静けさというが、それを実際に感じて句に仕立てた。作者の不安な気持ちも伝わってくる。(松枝真理子)
農道の轍を残し草茂る
若狭いま子
舗装されていない農道。軽トラックが通ることができるくらいの道幅だろうか。中七の「轍を残し」で、狭い道に草が繁茂している様子を表現している。(松枝真理子)
幹に葉に殻にも乗りて空蝉は
田中花苗
秋澄むや遺品に砥石彫刻刀
松井伸子
ゆるやかに花閉ぢゆけりからすうり
松井伸子
夏の果て医師とて病ひまぬがれず
千明朋代
万歳をさせて脱がせて汗のシャツ
箱守田鶴
射的屋の音湿つぽき村祭
中山亮成
花合歓の彼方や伊豆の海光る
小松有為子
赤松の幹の際やか西日射し
田中花苗
樋溢れ落つる雨音厄日なる
水田和代
高層の窓に映りて大花火
鎌田由布子
白川を辿れば芙蓉咲き初めし
板垣もと子
アカシアの花房揺らし香り立つ
(アカシアの花房を揺らして香り立つ)
深澤範子
羽田上空飛行機と大花火
鎌田由布子
夕立や満員電車の窓曇り
(夕立や満員電車の曇り窓)
板垣源蔵
広ごりて窄みて海月ただよへる
藤江すみ江
動く星ひとつありけり天の川
箱守田鶴
書に倦みて猫を眺める夜長かな
中山亮成
台風の前触れの雨畑に浸む
水田和代
蓮の花遠まなざしに清々し
藤江すみ江
いつまでも長男の嫁墓参り
松井伸子
瞬間に散るや開くや大花火
小松有為子
百日紅散りぢり無風昼下がり
(百日紅散り散り無風昼下がり)
三好康夫
主亡き書斎の机秋立ちぬ
飯田静
夏の果雲の切れ間にさす夕日
鎌田由布子
秋の雲地上に影を落とさざる
(秋の雲地上に影を落とさずに)
鏡味味千代
蝉声の野外劇場包みけり
鈴木ひろか
山の日や何処へも行けず当番医
深澤範子
満月の夜にしづしづと蝉生る
(蝉生る満月の夜にしづしづと)
藤江すみ江
気に入りの夏服どれも色褪せし
(気に入りの夏服どれも色褪せて)
千明朋代
昼寝して空を眺めてひと日過ぐ
(昼寝して空を眺めてひと日かな)
石橋一帆
涼新た鉢の底より水流れ
(鉢底より流るる水や涼新た)
森山栄子
ざりがにの弾かれしごと後退る
(ざりがにの弾かるるごと後退る)
小松有為子
台風や公園の池毳立たせ
鏡味味千代
蓮の実の飛ぶや盆地の日差濃く
飯田静
筑波嶺の見えぬ一日や秋の雨
(筑波嶺の一日見えぬや秋の雨)
穐吉洋子
満月や真横に並ぶ雲三すじ
辻敦丸
見送りし子はどのあたり夕月夜
松井洋子
好投手泣き崩れたる夏の雲
松井洋子
診察を待つこどもらに秋の蝉
福原康之
山霧の晴れしゴンドラ終着駅
飯田静
納骨を見下ろしてゐる法師蝉
松井伸子
油蟬鋼のやうな声音かな
小山良枝
西瓜割り通行止めの札を立て
箱守田鶴
コピー機のエラー発生朝曇り
穐吉洋子
涼新たヨーグルト喉すべりゆき
小野雅子
用水路超えて枝撥ね百日紅
(用水路超えて撥ぬる枝百日紅)
三好康夫
妻となるひと連れて来し川床座敷
板垣もと子
家族総出の自由研究夏休
五十嵐夏美
夏期講習塾の隣はチョコ工場
五十嵐夏美
さざれ波色なき風の跡見えて
田中花苗
向日葵のぶっとく伸びて子沢山
佐藤清子
ヘッドライト一瞬照らす虫の闇
田中花苗
触れなむとすれば夢覚め明易し
三好康夫
桔梗咲く折り目正しき母に似て
(母に似し折り目正しき桔梗咲く)
穐吉洋子
乗船を待つ間に褪せし秋夕焼
小山良枝
底紅や隠者のごとく街に住み
小野雅子
潮の香をまとふ野分の兆かな
(潮の香をまとふ野分のはしりかな)
奥田眞二
ひとり居の気まま風船葛揺れ
(ひとり居の気まま風船葛揺る)
水田和代
水を吸ふ黄揚羽の翅ふるへをり
石橋一帆
甲板に恋の始まるソーダ水
小山良枝
母のバッグ祖母の日傘で出勤す
五十嵐夏美
朝顔を数へて並ぶ登校児
穐吉洋子
水打つて一と日終へたるごとくゐる
朝からバイク疾走金蠅も銀蠅も
マンゴ、パパイヤ原色の女達が売る
市場とは物売る迷路ただ暑く
昔ベトコンたりし日焼の眼窩かな
ハンモックにまたがつて夜の顔つくる
酒亭のネオンいまも「サイゴン」大西日
かつて枯葉剤まみれの地平大夕焼
日焼子の放熱しきり眠る間も
遠雷や耳敧つる鳥けもの
葛の雨ふりかぶりバス喘ぎつつ
風くらひ葛の花房むくつけき
秋蟬の語尾の明るく雨上る
カーブミラーここの泡立つ草の花
霧しまく改札口を通り抜け
夕霧に消ゆ駅員も旅人も
祭笛つのり戦艦武蔵の碑
くちびるのはや乙女さび藍浴衣
朝顔の紺と紫差し向かひ
流灯の帯放たれし川の幅
流灯の連れ流れしがつとわかれ
次の世にも会ふべく念じ冷酒酌む
露草の群青目覚めたるばかり
八月やそやつは今も好かぬ奴
蛞蝓へせめてシチリア島の塩
帶屋七緒
鮎の宿酒一合をゆつくりと
鴨下千尋
有栖川親王馬上夏至の雨
高橋桃衣
鮎料理団栗橋を目印に
島野紀子
抽斗の奥に網かけレース古り
小塚美智子
少女らの髪さらさらと合歓の花
佐藤二葉
梅雨明けやぱたんぱたんと象の耳
清水みのり
初夏や風に膨らむマタニティ
竹見かぐや
梅雨明や鉄棒の影迷ひなき
田嶋乃理子
引き寄せし野薔薇の棘に刺されけり
栃尾智子
戻り梅雨鴉よ何を鳴き交はす
井出野浩貴
桜蘂降る生きることやや倦きて
江口井子
池の面に色濃く雨の夏柳
影山十二香
梅雨の空洋館のどの窓からも
高橋桃衣
眉太く一気に描きて炎天へ
佐貫亜美
毒のある話もさらり絹扇
牧田ひとみ
目高飼び母の晩年長かりき
佐瀬はま代
手術台に載せられにはか汗の引く
田代重光
わだつみに太刀捧げしも青岬
藤田銀子
舟遊難所難所にこゑあげて
石原佳津子
事情は様々に想像できるが、季題から察するに自分が育った家か、両親の家という愛着のある住まいに違いない。取壊しを決めた家ですることといったら、片付けか大事なものを見繕う作業だろう。それなのに昼寝をしたということは、それが目的ではなく、はじめから作業をしに行ったわけでもないのかも知れない。現実的な人から見たら「何をしに行ったのか」ということになるだろう。
しかし、この一句には家に対する思い出や感慨がこめられている。現実的な作業はさておき、懐かしい家にいるうちに昼寝をしたくなったのだ。昼寝から覚めた時の思いを思い遣りたくなる作品。
「ボート」を三度も繰り返している珍しい作品。始めのうちは若者がはしゃいでいるのかと思っていたが、下五に至って、ボート乗り場の作業であることがわかる。まだ夏も本番ではない頃、雨に汚れたボートを全てきれいにしているのだろう。言うまでもなく客の姿はない。行楽シーズンを前にした情景であることがわかる。
こんなに単純な形で、しかも同じ語を繰り返しながら季節や場所や、働く姿まで描けるのは並みの手腕ではない。
百日紅この炎熱に佇ちてこそ
高橋桃衣
今年の夏は猛暑日が続き、地球温暖化のせいか記録的な暑さだ。百日紅という花は、そんな暑さを喜ぶかのように百日間燃えるように咲き続ける。花の名の由来を知っている人も、今年の暑さの中でひと際紅く咲いていることに、改めて気づいたのではなかろうか。この句はそう思って読むと味わいが増す。
『枕草子』にも言っているように、夏はものすごく暑い時こそ、その極致や粋に出会うことができるのだ。
「知音」2024年1月号 知音集 より