茎立や時も日差も持て余し
高橋桃衣
「知音」2023年7月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2023年7月号 知音集 より
「知音」2023年7月号 知音集 より
鮟鱇の今生憂しと恥しとぞ
口噤むなまこ半分ほど凍り
先手必勝とは思へども海鼠かな
なまこ的処世訓垂れ海鼠食ふ
初夢のみぐるみ剥がれたればなまこ
初鏡父を憎みし日の遠く
老来の企みひとつ年酒くむ
わが追ひつめて凍蝶となりにけり
薬指強張るままの寒の入
寒威天に張りつめ四海真つ平
対岸に黄塵澱む寒日和
この窓の平和いつまで寒夕焼
寒禽の音符のやうなひとつづり
寒鴉ひと声発せずにはおけず
下草は腑抜け裸木気張りたり
マフラーに男の伊達や黒づくめ
揃はねど家族健在年酒くむ
おいしいと娘ひと言七草粥
熊谷市権田酒造の若夫婦
新妻も蔵の半纏初商ひ
振袖は風切る翼成人式
寒雀小学校の窓のぞく
給食に一皿足して鏡餅
網走時代を回顧しつつ二句
雪の中訪ねて飯鮨もてなさる
流氷に乗りて来世の我は鷲
冬うらら明日には夫の退院と
金子笑子
光るものひとつ身につけクリスマス
橋田周子
伊良湖岬一機のごとく鷹去りぬ
吉田しづ子
プラタナス黄ばみそめたり惜命忌
黒須洋野
聖書めく句帳を卓にクリスマス
吉田林檎
菊坂の肉屋魚屋冬めける
井出野浩貴
秋思あり阿修羅の像の御目元に
村地八千穂
隠れ耶蘇のマリアに捧ぐ野水仙
田代重光
鷹の羽拾ひて茶事の座箒に
山田まや
紛れなく鷹よ翔けても止りても
小山良枝
とろろ汁真空が喉通過せり
吉田林檎
落葉踏む蛇笏龍太の如く踏まむ
井出野浩貴
落葉踏む道なき道を選りしより
松枝真理子
もう鳴らぬグランドピアノ冬館
佐瀬はま代
喪心に歳晩の街色の褪せ
牧田ひとみ
から松のてつぺんに月引つかかり
中野のはら
紅葉冷え覚えてベンチ立ちにけり
山田まや
嘗て餌をねだらず佇立冬の鷺
藤田銀子
たましひの抜ければ甘し吊し柿
高橋桃衣
星冴ゆる自分を許すこと覚え
田中優美子
こうした経験は誰もが思い当たることだろう。知人を駅で見かけたが、声をかければ届くところにいたのに、声をかけずに見送った。それはその人との間に屈託があったからだ。季語がそれを語っている。
知り合いに偶然出会ったとき、声を掛けあうという間柄は明朗なものだ。しかし人間関係はそうしたものばかりではない。見送った後、その人とのあれこれを作者は思い出している。しかし相手は何も気づかない。立場が逆のことも人生のうちにはあるに違いない。
サンタクロースの存在を疑い始めた年齢。小学校の低学年だろう。すでに事実を知っている友達や兄姉たちから聞いて、うすうすわかってはいるものの、まだ信じていたい。子供ながらに、そんな複雑な思いをしているのだ。サンタさんからの手紙と言われて素直に読んではいるものの、この字はパパに似ていると気づいたのかも知れない。この句は事柄がおもしろいのではなく、子供の年齢が語られている工夫が際立っているのだ。
音読してみると「か音」の効果に気づく。体験そのものはありふれたものだが、俳句は表現であることを思い出させてくれる句。ものみな全て枯れつくした世界では、わずかな音も耳に届く。何かがいるに違いないが、ごくごく小さな存在であろう。
「知音」2023年7月号 窓下集 より
「知音」2023年6月号 知音集 より
「知音」2023年7月号 窓下集 より
「知音」2023年7月号 窓下集 より
「知音」2023年6月号 窓下集 より
「知音」2023年6月号 知音集 より
「知音」2023年6月号 知音集 より