しやぼん玉知らぬ子同士競いをり
小倉京佳
「知音」2024年7月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2024年7月号 知音集 より
「知音」2024年7月号 知音集 より
朝まだき乗継空港春いまだ
いちはやく春風察知管制塔
地平まで田園霞む離陸かな
拳上げ意気軒昂や大枯木
飛行機雲縦横斜め春浅き
春遠からじ北海の潮境
寒風はぶつかり潮目混りあふ
窓競ふ右岸左岸の冬館
料峭やことばさがしの旅ひとり
日めくりのあつけらかんと二月尽く
若布刈舟息つぐごとく傾ぎけり
文庫本忘れな草を栞りけり
雛あられむさぼるごとし老いぬれば
てのひらの残像として雛あられ
ガラスペンもて描く未来卒業期
梯子一つ一つ外され卒業す
出展の油彩仕上がり春立ちぬ
バレンタインデーのパンプス鳴らし来
東京を吹き飛ばしたる春一番
弁当に輝く卵春立ちぬ
囀の八連音符小止みなく
白梅に目白の逆さ縋りかな
まだ覗かれずあり新しき巣箱
霜柱扇びらきに倒れたる
初鏡背ナより妻に覗かれて
小野桂之介
遺伝子のつくづく不思議初鏡
松枝真理子
二階まで行つたり来たり小晦日
佐瀬はま代
初鏡かの世の人の声のして
佐貫亜美
松過ぎのほこりしづめの雨となり
影山十二香
簪のくれなゐ仄と初鏡
清水みのり
幼子の声よくとほり三が日
大塚次郎
チアリーダーどつと乗り来る七日かな
小塚美智子
鉋屑くるくる日脚伸びにけり
井出野浩貴
振り子めく自問自答の冬ざるる
岩本隼人
枯蓮たふるることもあたはざる
井出野浩貴
蒼穹を引つ掻き鵙の去りにけり
藤田銀子
鳥海山静かに在す小春凪
石田梨葡
しばらくの閑話に炉火の蘇る
山田まや
寒禽のしぼり切つたる声放つ
米澤響子
神の留守電話の声のしよぼくれて
𠮷田泰子
にほどりにむつかしき顔見られけり
立川六珈
試みの一句も投じ初句会
松枝真理子
夜半の冬初学のノート読み返し
田中優美子
花壇には入れてもらへず石蕗の花
三石知佐子
廃墟を冬の月が寒々と照らしている光景を想像した。国の内外を問わず、かなり文明や文化が発達した痕跡のある場所が、今は廃墟になっていることがよくある。何らかの理由で自ら亡びたのか、外敵に亡ぼされたのか、歴史の奥へ思いを馳せている句と読んだ。
数年前の疫病の世界的流行の折、ウイリアム・マクニールの「疫病と世界史」を読んだ時、今までの世界史観が覆された思いがした。文明や武器が発達した国が、未開の民族を亡ぼしたと思っていたものが、実は免疫のない国へ疫病を持ち込んだことで、民族が亡びてしまったという歴史があったことに、それまで気づかなかった。
この句はかなり抽象的なことを言っているようだが、冬の月に照らし出された廃墟を思い浮かべることができる、深い作品だと思う。
「たま風」とは、日本海沿岸に西北から吹く季節風。「たま」とは、西北に集まって住む「亡魂」のことで、柳田国男の説によると、この悪霊が吹く風の意味、と歳時記にある。「たま風六時間」と言われ、それほど長続きしないそうだ。山形県在住の作者ならではの作品。
「雪迎へ」とか「白鳥」とか「地吹雪」などとともに、地元の人しか体験できない季語を、もっと積極的に詠んでもらいたい。この句の勢いと速さは、長続きしない季節風を実に的確に描写している。
ポップコーン匂ひスケートリンク開く
𠮷田泰子
子供たちが集まる、冬場だけ開かれる臨時のスケート場であろう。私の住む二子玉川にもあるので、この光景は非常によくわかる。ポップコーンといえど、最近はキャラメル味やチョコレート味が人気らしく、休日の昼間はその香りが満ち満ちている。スケートと言っても、上手な子たちが幅を利かせているわけではなく、全くの初心者が楽しんでいる場所であろう。そうした場所柄を嗅覚によって描いた点が、この句のポイント。
「知音」2024年7月号 知音集 より
「知音」2024年7月号 知音集 より
「知音」2024年7月号 知音集 より
「知音」2024年7月号 窓下集 より
「知音」2024年7月号 知音集 より
「知音」2024年7月号 知音集 より
「知音」2024年7月号 窓下集 より