上野文子句集『露華』
2004/7刊行
読みすすんで行くと朝露のようにきらりきらりと光るものがある―それは作者の俳句への思いそして家族への愛である。あえかな光だがどんな宝石よりも美しい―第一句集。
福寿草微笑み返しくれにけり
寄つて来し猫にやるものなく寒し
師の影のふと見えにけり鑑真忌
露草の一つ一つの希望の瞳
客観写生にそれぞれの個性を
読みすすんで行くと朝露のようにきらりきらりと光るものがある―それは作者の俳句への思いそして家族への愛である。あえかな光だがどんな宝石よりも美しい―第一句集。
福寿草微笑み返しくれにけり
寄つて来し猫にやるものなく寒し
師の影のふと見えにけり鑑真忌
露草の一つ一つの希望の瞳
雲走る走る雲雀のこゑ散華
濤声もみどりなすなり鑑真忌
秋風に後れ先立つほどのこと
つはるてふこと怠らず冬桜
城を盗らずをみなをとらす花の雨
祭浴衣老獪にして汗かかず
椎の実や見えざる轍われを轢く
千秋といふはいちにち落葉踏む
海鳴るぞ山鳴るぞ春ゆくなべに
武者ねぶた瞋恚も恋も真つ赤ぞよ
~あとがきより~
平成13年4月から1年間の休暇を得て京都を中心に多くの祭りを見て廻った。いきおい本書の内容として祭の句が多いことから句集名は躊躇なく「祭」とした。
書家の津金孝邦さんからその「祭」の一字をいただいたことは、大いなる知音を得た思いであり、これにまさる喜びはない。
本句集が成るにあたって、さきの自注句集に引き続きて「樹の会」の仲間の全面的なバックアップを受けた。
また、角川学芸出版のスタッフのみなさんには短期間に集中して行程を進めていただいた。ここに記して感謝したい。
月見草胸の高さにひらきけり
夏シャツの胸ポケットに何もなし
若草に我がゴンドラの影進む
ウインドに映れる我等夏の雨
春暁の乳欲る声を漲らせ
泣きやみておたまじやくしのやうな眼よ
つまづきし子に初蝶もつまづきぬ
風邪の子の力なき眼が我を追ふ
気に入りのおもちや召し寄せ風邪の床
葱きざむ子の嘘許すべかりしや
粽解くにも弟の負けてゐず
蜜柑むき大人の話聞いてゐる
愚痴つぽく皹が又疼き出す
秋刀魚焼くレモンのやうな月が出て
ぜいたくは出来ぬ暮らしの柚子一つ
麦笛や夫にもありし少年期『窓』
花水木明日なき恋といふに遠し『窓』
来ればすぐ帰る話やつりしのぶ『かりそめならず』
ひととせはかりそめならず藍浴衣『かりそめならず』
職場の同期会の旅行で俳句に出会った仲間が、「知音」の初心者だけの句会「ボンボヤージュ」の卒業と還暦を記念して刊行。7人の個性が凝縮された合同句集。
『無言劇』から『昆虫記』まで、既刊句集全三冊の作品を季題別に収録。作品理解の上で更に役立ち、実作者にとっては季題を通して俳句を学べる格好の一書。
◆ 季語別句集シリーズ4
『無言劇』から『昆虫記』まで、既刊句集全三冊の作品を季題別に収録。
作品理解の上で更に役立ち、実作者にとっては季題を通して俳句を学べる格好の一書。
春の宵 春宵
春宵の分針少し遅れゐる 無言劇
春宵の宿のもの音聞かれけり 無言劇
春宵やすでにはるけくボブ・デュラン 知音
雪 吊
雪吊の縄にはりつき雪凍る 無言劇
雪吊のたるみては風篩ふなる 昆虫記
雪吊の髻を風の一と掴み 昆虫記
◆ 著者第一句集
『ラムネ玉』は、さわやかでなつかしい音がする。
『ラムネ玉』は、空の色、水の色、流れゆく時間の色でもある。
『ラムネ玉』を透かして見た一句一句に、私は桃衣さんの魂のしなやかさを感じる。
行方克巳(帯文より)
俳句の魅力に目覚めた時、人は内なる声に気づく。その声を表現する手段を得て、自分自身を再確認するゆくたてが、この句集には収められている。
西村和子(序文より)
ファインダーに入り切れない花野かな
水底の空を駆け抜け寒鴉
亀の子の泳ぐ手足のやはらかし
蝶々の夢の続きを飛びわたり
いつまでもルオーに佇てる冬帽子
ラムネ飲む釣銭少し濡れてをり
流されてゆくは小鴨か佇つ我か
ハンカチーフきつぱりと言はねばならず