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金子笑子 句集『雪舞』
2010/9/23刊行

数へ日の本腰入れて雪の降る 笑子
老神温泉はなつかしく心安らぐ出湯である。
『雪舞』の作者笑子さんは、その老神を象徴するような人だと思う。
女将としての笑子さんにとって、雪はしたたかで、
あなどれぬ存在だろう。
しかし、一方ではその雪が、彼女に老神の風土に根ざした
多くの作品をもたらした。
行方克巳 (帯文より)

蛇神輿舁くといふより集りをり
板長の怒鳴つてをりぬ二日はや
初旅の夫の寝付きよきことよ
面白き程よく眠り風邪癒ゆる
数へ日の本腰入れて雪の降る
誰も居ぬ二階に音や雪の夜
お決まりのごとく四日の大雪よ
冴返る自問自答を繰り返し
あたたかや赤ちやん一人居るだけで
踊の輪立て直しつつ踊りけり (行方克巳 選)

西村和子第五句集『鎮魂』(たましづめ)
2010/8刊行

前句集以降60歳までの7年間の作品400句を収めた句集。

鎮魂歌はもとより亡き人に捧げられるものだが、句を作ることでもっとも魂が慰められ鎮められたのは、残された私だ。その思いをこめた句集名『鎮魂』。
踊唄みやこ恋しとくり返し
雲の峰沖には平家船を並め
年酒酌む生したてたる二人子と
白南風やもとより翼持たざる身
朴落葉して林中にふたりきり
林檎剥き分かつ命を分かつべく
霜の夜の夫待つ心習ひなほ
うつしみは涙の器鳥帰る
我をのみ待つらむひとり魂祭
三人の遺影机上に稿始め
かへりみる勿れ夜桜夜の坂
在りし日のまま並べ掛け夏帽子

鈴木淑子 句集『震へるやうに』
2010/6/16刊行

二十代の本音と呟き。
幼なさの揺曳も、早熟な感慨も、みずみずしい感性も、ひたむきな思いも、
変身を待つおののきに震えている。
ひらかれた俳句の扉から飛びたった言葉のひとつひとつが眩しい句集。
西村和子 (帯文より)

夏空を駆け上がるやうにして別れ
赤ちやんの口もと美人小鳥来る
時雨るるやのつぺらぼうのガーゴイル
しやぼん玉噴き上げパレードの鯨
心臓の震へるやうに蝌蚪泳ぐ
母さん母さんとくつついて軽鳧の子
まつすぐになんかなれないバレンタイン
飛びたくて飛びたくてむささびの進化
寒夕焼こんなカクテルあつたかも
春埃仕舞ひきれないものばかり (自選10句)

行方克巳第五句集『阿修羅』
2010刊行

阿修羅像わが汗の手は何なさむ
うすらひや天地もまた浮けるもの
夜桜の大きな繭の中にゐる
神輿舁く男は拉げたるがよき
羅や氏より育ちされど氏
電線につながれて枯れ深む家
鯛焼は一寸泳がせてから食べる
蝌蚪群るるN極とS極とあり
はつなつや声をはだけて少女らは
憂国じゃ死をまぬがれず曼珠沙華
(自選十句)

行方克巳著『漂流記』
2009/2刊行

若き日の俳句と、俳人論を収録

俳句に出会うまでの瑞々しい青春の航跡。
俳人・行方克己のあらゆる萌芽を宿している
若き日の作品をすべて収録。
同時収録の中村草田男・西東三鬼・橋本多佳子・森澄雄・西村和子論は、
それぞれの作家像に肉迫する渾身の俳人論である。

●目次より
瑕瑾集
灰汁の花
汗駄句駄句
I 慶大俳句以後
II 『無言劇』
蒟蒻問答集
草田男諄々
三鬼燦々
多佳子津々
澄雄沈々
胸の高さに―西村和子の俳句

西村和子著
『俳句のすすめ ー 若き母たちへ ー』
2008/8刊行

女の一生の中で最も輝かしく、ドラマに満ちた子育ての日々。時には育児日記として、時には心の記録として、17字の季節詩に刻む楽しさを、若い母たちにも味わって欲しいと願う著者の実践的俳句入門。

小沢麻結句集『雪螢』(ゆきぼたる)
2008/6刊行

◆ 第一句集
雪螢とはまことに
あえかなる存在である
しかし、その小さないのちには
思いがけない強さがある
ピーター・パンの冒険心と
ニンフの若々しさをあわせ持つ
作者の詩ごころが
『雪螢』一巻の随処に
ちりばめられている 
(行方克巳)

「月探す表参道交差点」都会の賑やかな交差点で、信号を待ちながら、或いは歩いている途中でも、ふと月を探す。その思いは日常に詩を求める思いに似ている。雑踏の中の一人でありながら、中空の月を心に持つ時、人は句ごころを胸に抱く。
(西村和子)

◇行方克巳選
もう前も後ろもなくて芒原
元気あとは山の絵の暑中見舞
日本も寒いらしいねと初便
かはい気のなくて結構春の風邪
葉桜や眩しげに訳聞かれたる
目覚めても目覚めても夜風邪の床
踏ん張つて蜥蜴の尻尾再生中
約束を悔やむ手袋なきを悔やむ
月探す表参道交差点
式典の空も会場原爆忌