コンテンツへスキップ

御子柴明子句集
『子らのゐて』
2019/6/15刊行
ふらんす堂

第一句集
[みこしばあきこ(1945〜)
帯:西村和子
序:行方克巳
装画:御子柴徹朗
装丁:和兎
四六判フランス装カバー装
208頁

三十歳で途切れてしまった長男のアルバム。
その思い出とれからの母の思いを残したいと思い立って編まれた句集。
小児精神科医として俳句作者として喪失感と虚無感から立ち直る力を与えられたのは
新たな幼い命だった。
(帯・西村和子)

◆西村和子抄出
振り向けば雪嶺がまた別の顔
凧揚げて売りて故宮の秋日和
秋晴も秋風もガラスの向かう
屋根掴む氷柱魔王の指のごとし
冬の朝遺品の時計遅れ気味
雪片のとどまらず時とどまらず
炬燵から出よとばかりに電話鳴り
子らのゐし葡萄の粒のやうな日々
月朧ろ天上の子と酌み交はす
産み月の威風堂々嫁小春

パラソル句会合同句集
『海へ』
2019/3/19刊行
デザインエッグ(株)

パラソル句会10周年を記念して編まれた合同句集。
現会員26名、卒業生10名の計36名が参加の句集。

<巻頭>
子育ての日々は短し秋日傘
西村 和子

<会員作品>
野遊びの子は転ぶまで駆けてゆく
青木あき子

青田風一年一組をぬけて
飯干ゆかり

この先の十年いかに更衣
磯貝由佳子

巡礼の如し落葉の道ゆくは
井出野浩貴

ゐないのねこんなにさくらさいたのに
いわさき章子

子がまねて気づく口ぐせ福寿草
梅田実代

馴れ初めを聞き漏らすまじ冬籠り
大友紅蔵

校門に着くなり疲れ入学児
小澤佳代子

子の髪のなびけば春風のかたち
帯谷麗加

年の市小さき器ばかり見て
鏡味味千代

緑さす握手に力貰ひたる
笠原みわ子

春の宵花茶ゆるゆる開きゆく
加藤志帆

花火果て月をよるべの家路かな
巫 依子

卒園の朝の寝癖を直しやる
菊池美星

ほほゑんでゐるゑのころと言ひながら
黒岩徳将

ロッカーのずらり口開け春休み
國領麻美

探梅のいつしか探鳥となりぬ
小山良枝

吾子に買ふ片道切符風光る
志磨 泉

十字架は黄金比率麦の秋
島野紀子

からだごと入れてひとりの春炬燵
睡 睡

背番号叶はぬ子にも春の風
杉谷香奈子

赤蜻蛉まだ固まらぬガラスのやう
田中久美子

母を生みし里に生きよと山笑ふ
田中優美子

人の目を避けて西日を避けてキス
津野利行

老いてゆく東京タワー風信子
氷岡ひより

横断の手は真つすぐに若葉風
中川玲子

宿題は早寝早起き運動会
布川礼美

言ひ分に一理ありけり巣立鳥
乗松明美

いつもの席いつものコーヒー春深し
塙 千晴

なぜか夜なきはじめたり秋の蟬
林奈津子

美学とは無駄多きこと秋闌くる
藤田銀子

しぐるるや捜査本部の午前四時
富士原志奈

冷ややかやてのひらにとる化粧水
松枝真理子

母子手帳受けて大道夏兆す
森山栄子

朝顔の種折紙に包みけり
山﨑茉莉香

短日のまた読み返す手紙かな
吉田林檎

蟾蜍  西村 和子

うしろにも気配よぎりし竹落葉

梅雨に倦み世に倦み船のピアノ弾き

もの書くはひきこもること蟇

蟇内なる闇をひきかむり

偸盗の手下(てか)の蝙蝠蟾蜍

蟇虚子亡きのちの闇を守り

庭先を江ノ電の音額の花

もてなしの雫残れる額の花

 

白玉  行方 克巳

夏暖簾端近にして座持ちよく

青葉雨かつての家族写真にわれ

白玉を食ひに行こかと男どち

白玉や島原小町老いたれど

くつつきしままの白玉すくひけり

白玉やさらぬ別れのありといへば

メロンより西瓜が好きとにべもなく

龍馬あり左内ありし世雲の峰

 

◆窓下集- 9月号同人作品 - 西村 和子 選

原書購読五月の窓に背を向けて
藤田銀子

嫗出て傘干してをり藤の茶屋
山田まや

ありんこを潰す子ぼうつと見てゐる子
影山十二香

片付かぬ本の山増え梅雨湿り
松井秋尚

ちよとのぞくボクシングジム姫女菀
松枝真理子

船内にピアノ気怠く梅雨の航
牧田ひとみ

門灯の知らぬまに点き春も逝く
植田とよき

待合せ場所はコンビニ梅雨曇
塙千晴

ひきがえる暗がり増ゆる父母の庭
中津麻美

スタカットはた三連符花藻ゆれ
米澤響子

 

◆知音集- 9月号雑詠作品 - 行方 克巳 選

婚礼のマカロン摘む夏手袋
三石知佐子

ぼろ屑のごとく固まり軽鳧の子ら
植田とよき

じろつと見るあの女の目蟇
鈴木庸子

撓むとは耳打ちに似て竹の秋
中川純一

熱の子の汗拭きやれば薄目あけ
佐藤二葉

真白なテーブルクロス夏館
くにしちあき

硝子器にかへて早々夏気分
佐藤俊子

夏つばめ三尺路地の軒掠め
前山真理

糠雨に垂れて名残の花菖蒲
田代重光

袋角触るればぽつと灯りたり
米澤響子

 

◆紅茶の後で- 知音集選後評 -行方 克巳

王冠の刺繍のシーツ夏館 三石知佐子

フランスの古城ホテルに宿泊したのである。ヨーロッパにはすでに廃城となった建物を高級ホテルとして今に活かしているところが少なくない。シーツにもかつての城主たる印の王冠が刺繍されているのである。はたしてその夜の夢は如何に―――。

いくたびも父を討ち取り水鉄砲 植田とよき

鉄砲は武器であり、水鉄砲は玩具である。水鉄砲から飛び出すのは水であり、誰を傷付けることはない。しかし、本来人を殺傷するのが目的である鉄砲という玩具を子供に与えることは、人殺しの練習を子供の頃からさせることでもある。こんなことを考えて子供に水鉄砲を与える親が居るとは思わないが私にはどうしてもひっかかる部分がある。それは最近の戦争が全くテレビの画面の中で行われているゲームみたいであるからだ。戦争の現場を全く体験せず、しかも大量の血が流れる殺戮が行われている事実がある。まるでゲーム感覚でしかない戦争の恐ろしさ―――。私はゲームの楽しさも何も知らないが、ボタン1つで相手を殺す殺人ゲームは人類の今後を象徴するものだ。子供は容赦なく父を追いつめ、父親や水鉄砲に打たれるたび複雑な思いを感じるのである。

蟇犬に嗅がれてをりにけり  鈴木庸子

のそのそと這い出してきた蟇を見とがめた犬がこいつは一体何ものだとばかりに近付いてゆく。犬はまずその鼻でもって相手が何たるかを確かめようとする。犬はまだ蟇は知らないのだ。もし蟇が飛ぼうとでもすればすぐにちょっかいを出すだろう。蟇はそのことをよく知っている。この蟇と犬の関係を、人間と人間の関係に置きかえてみるとおもしろい。