ハチ公の片耳白く春の雪
小倉京佳
「知音」2017年5月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2017年5月号 窓下集 より
目も鼻もなき短日の木偶であり
葉書いちまい手にして湯冷めごごちかな
父を謗り母を叱りて寒や夢
おめえらと一括りされ日向ぼこ
火の付かぬ焼けぼつくいや日向ぼこ
日向ぼこ地獄見て来し顔ばかり
狡辛い男の噂日向ぼこ
羽子板市恋の迷路もなかりけり
保険証しかと確かめ初電車
初電車優先席へ迷ひなく
原稿の督促なりし初電話
加賀の雪詰めて蟹の荷届きけり
湯を花と滾らせ放ち鱈場蟹
絵師逝きしのちの開かずの障子かな
絵の奥の夜の雪積む音ひそか
目覚めけり聞こゆるはずのなき咳に
デスマスクごろんと置かれ冬館
吉田林檎
画鋲の穴あまた夜学の掲示板
井出野浩貴
湧き出でて落つるも無音秋の水
藤田銀子
小春日やトロンボーンののほほんと
高橋桃衣
小鳥来るチョコ工房はガラス張り
影山十二香
自負少し鏡に戻る秋夜かな
岩本隼人
道の辺の草の声聴く素十の忌
牧田ひとみ
正座して聴く山の音秋深し
井戸ちゃわん
朝霧がロッジの窓を流れゆく
植田とよき
出し抜けに思ひ出す名や灯火親し
石山紀代子
旅にして引鶴の空晴れ渡り
千葉美森
ためらひもなくむささびの一ッ跳び
中川純一
思いつきり尻餅つきぬ秋の雷
小原純子
島人に雁金の空あをあをと
櫻井宏平
ノーサイド円陣の背に湯気のたつ
渡谷京子
外れたる道を戻れず寒北斗
冨士原志奈
こはごはと膝の兎を撫でてゐる
大橋有美子
血涙の通へる桜紅葉かな
中田無麓
大根と大根の葉の昭和かな
高山蕗青
対岸の雪吊ふるふるふるふると
栃尾智子
真鶴や鍋鶴の飛来地として鹿児島県の出水市が知られているが、3月にもなるとまたはるばると北方の地を指して帰って行く。その繰り返しが毎年行われるのであるが、それが習性とは言いながら、何故これ程まで苛酷な旅を繰り返さなければいけないのかと思うことがある。私共人間の目から見れば、こんなに美しい水の国を去って行く鶴の気持ちが知れない、というところだろう。<鳥帰るいづこの空もさびしからむに 安住敦>の句が思い出される。
投じられた句から、車椅子での活動を余儀なくされたことが分る。また車椅子で外国にも行っている。そういう立場にあれば致し方のないことであるが、それが作句のよすがにもなるのである。上五中七、当り前のことのようであるが、これは車椅子を使用する身となっての実感なのであり、季題が有効に働いていることがポイント。
久しぶりに時間を得て故郷の母を訪れると、好物の柿を剥いてすすめて呉れた。それも山盛りにーーー。そんなに食べられないよと言いながらも母の手許をじっと見つめている作者である。
「知音」2017年5月号 窓下集 より
「知音」2017年5月号 窓下集 より
「知音」2017年5月号 窓下集 より
『句集 自由切符』 ふらんす堂 2018刊 より
『句集 昆虫記』 角川書店 1998刊 より
『句集 夏帽子』 牧羊社 1983刊 より
『句集 昆虫記』 角川書店 1998刊 より
『句集 窓』 牧羊社 1986刊 より