犬ふぐり咲いて陵墓と野を分かち
原 川雀
「知音」2019年6月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2019年6月号 知音集 より
「知音」2019年6月号 知音集 より
初寝覚黄泉平坂より電話
雑煮椀洗ふひとりの水つかふ
風呂吹を吹いて不器用あひ似たり
血の管の耐用年数寒の雨
寒の水愚直の十指焠ぐべく
大寒の我に一瞥ホームレス
大寒や術なき木偶の足づかひ
死神に耳うちされてあたたかし
みちのくの星は大粒春隣
根合せをせむとや芹鍋の棒根
芹鍋や鬚根くはしく洗ひあげ
芹鍋や酒豪健啖うち揃ひ
芹鍋や酒一滴は血の一滴
芹鍋や六腑に清気巡りたる
芹鍋や旅程延ばせし甲斐ありし
芹鍋や宵の星降る裏小路
冬うららとんびの声も波音も
高橋桃衣
冬晴や海へ曳きたる富士の裾
井出野浩貴
駅前の広場に蘇鉄冬うらら
井内俊二
ゐずまいを正すてふこと今朝の冬
島田藤江
隠しより新札熊手選りながら
藤田銀子
高舞へる鳶を仰ぎて納め句座
前山真理
靴の泥流れに濯ぎ小六月
大橋有美子
夫はテレビ吾は居眠り夜の長き
井戸ちゃわん
竹馬にピエロが乗つて野分あと
植田とよき
金風や歩いてほぐす身の疲れ
山田まや
瞬きて工事現場の聖樹かな
佐貫亜美
待降節の死やアフガンに殉じたる
江口井子
警備所の名は供溜冬紅葉
帶屋七緒
吹き溜る枯葉に菓子パンの袋
菊田和音
吐き出せぬ言葉のみ込み悴める
鈴木庸子
街宣車だらだら走る師走かな
田中優美子
綾取の子の指こんなにもやはらか
石原佳津子
ダンボール踏んで束ねて十二月
吉田しづ子
冬帽子かぶれば齢添うてきし
笠原みわ子
無表情とは年の瀬の警備員
中川純一
沼津御用邸での作。作者は広々とした御用邸の庭を落葉を踏みながら歩いている。屋敷のどこかの部屋に、少年であった日の天皇(昭和天皇か平成天皇がいずれかであろう)の写真が飾られていたのかも知れない。少年は自分と同じようにこの庭の落葉を踏み、石蕗の花に目を止めつつ歩いたにちがいない。そんな少年の日の天皇にひょっこり会えるような気もする。他の子供と特徴の差異があろうとも思われない一少年が、やがて日本で唯一の天皇という存在になるのである。
「中村哲氏を悼む」という前書がある。雑詠欄の前書は誌面の都合でほとんどはカットされてしまうが、この場合はどうしても必要な前書である。(私達は句集などにもほとんど前書を用いることがないのだが、一句一句の独立性を損なわない限りにおいて前書は有効に活用すべきだとこのごろ私は考えるようになった。)中村さんはアフガンで身命を賭して現地の人々のために働いた。それなのに考え方を異にする人らの凶弾に倒れたのである。多くの日本人が世界各地にちらばって恵みの少ない人々のために働いていることを思えば、私たちの生活上の不平不満は取るに足らないことだ。
皇室のどなたか(天皇かも知れない)が着用されたというちゃんちゃんこが展示されている。一口にちゃんちゃんこというが、流石にその仕立には念が入っている。そんじょそこらのちゃんちゃんことは格が違うのである。
「知音」2019年6月号 知音集 より
「知音」2019年5月号 知音集 より
「知音」2019年5月号 窓下集 より
「知音」2019年6月号 知音集 より
「知音」2019年5月号 知音集 より
「知音」2019年5月号 知音集 より
「知音」2019年5月号 知音集 より