姉見舞ひ東京の星涼しかり
前田星子
「知音」2017年11月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2017年11月号 窓下集 より
西口の交番前の薄暑かな
軽暖や昔アジトの紀伊國屋
ソーダ水あまさず嘘の聞き上手
紫陽花を描き日月描きけり
梅雨の月飛白のごとく明るめる
浮草にべつたり座つてみたくなる
青胡桃すなほになれぬ奴ばかり
雲の峰にも頽廃と澎湃と
助手席に乗つて来たりしさくらんぼ
粒揃ひとは箱入りのさくらんぼ
コバルトの鉢も喜ぶさくらんぼ
ひと粒に光輪ひとつさくらんぼ
濯がれて笑ひさざめきさくらんぼ
桜桃の首飾りより頬つぺ照り
モップかけながらつまんでさくらんぼ
さくらんぼ洋酒に浮かべ夜の書斎
揚雲雀濁世の吾を置き去りに
江口井子
春寒しハグも握手も禁じられ
佐貫亜美
囀や人間界は息潜め
井戸ちゃわん
産土の誉れの藤を見にゆかむ
黒須洋野
抜かずおきたれば浦島草なりし
高橋桃衣
子供の日僕は元気と電話口
國司正夫
飾兜赤子の笑みの無敵なる
植田とよき
父の庭荒るるにまかせ桜草
井出野浩貴
桜蕊降る降る休校続きけり
小倉京佳
鎮めおく神馬や競べ馬中止
野垣三千代
ブランコの赤い服揺れ止めば婆
山田まや
花は葉に病院の建つ話など
若原圭子
春昼の眉ふと動き忿怒佛
島田藤江
ステイホームや初物のサクランボ
羽深美佐子
妹は老いてよき友新茶汲む
岡田早苗
またぞろと熱の予感や走り梅雨
五十嵐夏美
海へ行くあては無けれど夏近し
片桐啓之
かくしやくと三百齢の松の芯
立花湖舟
惜春や鍋にかたこと茹で卵
津田ひびき
水底の震へ止まぬは蝌蚪生まる
藤田銀子
「咫尺千里」とは、ほんの僅かの距離も場合によれば千里も離れて思われるということ。言葉には出していないけれども、この句はコロナ禍の現状を嘆いた句である。会いたい人には会えず、行きたい所へも行けず、ひたすら家に籠ったままの生活を余儀無くされている毎日である。「春愁のマスク」ということで、恋の気分を少し絡めた句作りになっている。
遠足の子供達が、皆のリュックを芝の上に積んで、思い思いに遊んでいる。すると鴉がそのリュックを突ついて、中の食べ物を狙っているというのである。鴉の知恵にはほとほと手を焼くことがある。私もある朝、ビニール袋のゴミをちょっとの間ベランダに出しておいたら、声も立てずに鴉がやって来てあたり一面ゴミだらけにされた。
それまで身を固める気配などこれっぽっちも見せなった娘が、にわかに結婚相手を連れてくると、あれよあれよという間に嫁に行ってしまった。娘の部屋も片付いていないし、どこか急な旅にでも出たような感じである、好きで育てていた蘭の鉢もまるで置き去りにされたようーー。
「知音」2017年11月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より
「知音」2017年10月号 窓下集 より