嘘を吐くことも孝行衣被
影山十二香
「知音」2016年12月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2017年11月号 窓下集 より
凌霄の火柱に蝶あそびけり
鉋屑の風こそばゆき三尺寝
裸子に父の胡坐の玉座かな
人買の目をして妻の裸見る
ゲルニカの馬が嘶き昼寝覚め
化けて出れば逢ひたきものを半夏雨
泳ぎけり無明長夜に抜手切り
晩緑やあと十年で片が付く
鮎茶屋の屋根草そよぐ丈となり
背越鮎京もここらは川滾ち
雨音にまさる瀬音や鮎を焼く
鮎の骨抜きて指まで水白粉
騙す気はてんから無きに天道虫
不思議とも思はず無邪気天道虫
初蟬の気息奄奄大禍時
胸奥へ鬼哭啾啾夜の蟬
鳰の浮巣天地創造幾日目
井出野浩貴
しみじみと一人なりけり青時雨
石山紀代子
利休忌に手向くる一枝黒椿
山田まや
細やかに庭石菖の風刻み
大橋有美子
クレマチス薄紫は母の色
小池博美
お屋敷の螺旋階段薔薇盛り
林 良子
北斎の夕立写楽の男ゆく
井内俊二
久女伝じつくり読めば梅雨深し
松枝真理子
葵橋浄むるごとく青しぐれ
野垣三千代
わがままに生きて日傘のフリルかな
永井はんな
ぼんやりと異国のニュース昼寝覚め
くにしちあき
夏蒲団風に晒して冷ましけり
石山紀代子
上水は江戸へ真つ直ぐ夏木立
植田とよき
蘭鋳のスパンコールの乱反射
中津麻美
籠居の耳聡くなり若葉風
島田藤江
かき氷みたいな色のキャベツかな
國領麻美
聞くとなき隣の話暑苦し
高橋桃衣
蚕豆や鈍感力といふものも
志磨 泉
子を抱いて離れの母へ柚子の花
大橋有美子
西瓜には豚の尻尾のやうな蔓
柊原淑子
家々に水道のなかったころ、共同の井戸の周りに集まっての女たちのおしゃべり(井戸端会議)は日常茶飯事のことであった。色々と情報を交換するという場でもあり、懇親の場ともなっていたのだ。さて、家路を急ぐ夕まぐれ、たまたま出会った知人との立ち話。すぐに終るはずがなかなか放免してはくれない。他人の悪口なども出ようというもの。十薬の花が白々と咲いている足元に目を落としつつ早く切り上げなければと思う。この句、十薬でなければ活きてこない。
水槽の金魚を眺めている時は、いうならば人間目線である。はじめに何匹かの金魚を何となく見ていたのが、とある一匹に興味を持つ。すなわちその一匹の金魚との対話が始まるのである。人間目線がだんだん金魚目線になってくる。中七下五はその時の作者姿勢であり、心のかたちでもある。
寝ていても、テレビを見ていても地震を感じると、私はすぐに部屋の片隅に吊ってある江戸風鈴を見る。まれに本当の地震でもないのに体に何か揺れを感じる時がある。そういう時は風鈴の舌はピタッとして動かない。もう地震の揺れが私の体から去ったあとでも、風鈴の舌が微妙に揺れていることもある。さて、地震の微弱な揺れが遠ざかった今、作者の体を過ぎてゆく、このかすかなる揺れは何なのだろう。
「知音」2016年12月号 窓下集 より
『句集 晩緑』 朔出版 2019年刊 より
『清崎敏郎』 春陽堂書店 1993刊 より
『句集 知音』 卯辰山文庫 1987年刊 より
『句集 かりそめならず』 牧羊社 1986年刊 より
『句集 知音』 卯辰山文庫 1987年刊 より