天高し働く人は背を丸め
大橋有美子
「知音」2016年12月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
母の庭荒れしままなる帰省かな
そのことに誰も触れざる帰省かな
夏炉焚くしばらくここにゐて欲しく
昨夜の蛾の吹かれ覆らんと歩む
あけたてのガラス戸に秋立ちにけり
荘出でし三歩に霧の深さかな
ほふしつくほふしつくとぞ昼暗し
月見草あしたの花として開く
夜蟬しづまらず疫病衰へず
秋の蟬午後は頭蓋に響きけり
アイスティー薄荷はかなき花うかべ
隼人瓜しやきしやき刻み口八丁
旋頭歌は覚え難しよ草の花
鳳仙花白は色水すきとほり
鶏小屋も縁も手作り鳳仙花
石けりに倦めば缶蹴り鳳仙花
人種的公正主張夏の夜
谷川邦廣
つきあうてやるか天道虫の擬死
井出野浩貴
峰雲を背負ひて育てて羅臼岳
中川純一
天道虫星二つとは大胆な
高橋桃衣
七月や心岬に遊ばせて
米澤響子
冷やつこ今日の夕餉も独りぼち
山田まや
相部屋の誰も目覚めずはたた神
植田とよき
洗面器ひとまづ金魚遊ばせて
井戸ちゃわん
お金持ち夢見る少女小判草
前山真理
くりかへしファーブル読む子梅雨深し
牧田ひとみ
母ほどの美人に遭はず目高飼ふ
中川純一
サンドレス揺らし電話にうなづける
𠮷田林檎
裏木戸を開ければ異界七変化
原田章代
アイスキャンデー母さんに又かじられて
井川伸造
梅雨寒やテレビ会議の面やつれ
中田無麓
格納庫開くかに翅天道虫
谷川邦廣
廃線のレールここまで草いきれ
島田藤江
片かげりよりチーターの窺へり
小林月子
蚊帳を吊る母に纏りつきしころ
岡村紫子
軽鴨の首の生傷目の野生
岩本隼人
つまらないことで年の近い兄弟は喧嘩をするものである。
弟の方がうんと負けず嫌いだと、争いはなかなか収まらないで、激しい取っ組み合いになったりするのである。そういう時に、二人にとって親友である少し年長な子が仲裁に入る。
たまたま飲みかけていたラムネ壜を摑んだままで、「よせよせ」とばかり二人の間に割って入ったのだ。勿論「入る」の主語はラムネではなく、仲裁に入った人物である。手際よく省略された一句。まさか、ラムネ壜を割って喧嘩に加わったなどと考える人はいないでしょうネ。
ゼリーのスプーンを口に運びながら、当り障りのない会話をしている二人ーー。
結局その時間は只の空しい時間のロスとしか思えないのである。毒という語は真実ということに通じる。詩もまた然り、毒のない俳句はつまらない。
私の大学生の頃のこと、池田弥太郎先生が、黒揚羽に遭遇したその直後、折口信夫の訃報が届いたという話をしたことがある。林中で突然目交を過って飛んでいく黒揚羽は、何か魂を寒からしめるものがある。飛び去った黒揚羽にふと昔の男を感じ取った作者の思いも、それに通じるものがある。
黒揚羽は、すれ違っただけで引き返しては来ないーー。
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より
「知音」2016年12月号 窓下集 より