敗荷の終の化粧の雨微塵
西村和子
『句集 わが桜』 角川書店 2020年刊 より
客観写生にそれぞれの個性を
『句集 わが桜』 角川書店 2020年刊 より
『句集 晩緑』 朔出版 2019年刊 より
『句集 わが桜』 角川書店 2020年刊 より
『句集 晩緑』 朔出版 2019年刊 より
『句集 わが桜』 角川書店 2020年刊 より
冷やかに色を変へけり万華鏡
寝そびれて夜長を託つ灯なりけり
砲丸のやうな手触り長十郎
秋風や鯛焼いつも二つ買ふ
ゆつくりと歩めば流れ秋の水
新涼のピアノに写りゐるばかり
風船葛手に手に別れまた楽し
蓑虫の自前のサックドレスかな
白さめし百日過ぎしさるすべり
狩り終へし葡萄棚より昼の虫
鳴り満てり嵐のあとの虫のこゑ
裂きて入れ丸ごと放り芋煮会
少年が指さし増やす秋の星
袖通さざるままのちの更衣
秋の暮ひとりに慣れしとは言へど
夕暮に似たる夜明や初しぐれ
不忍池を涼しく父の下駄
藤田銀子
スイカ丸ごと空色のエコバッグ
志磨 泉
しかうして川面は闇に祭鱧
井出野浩貴
金魚にかまけ妻の愚痴遣り過す
岩本隼人
母在すごとしなすびを煮てをれば
井戸ちゃわん
随いてくる蝶へ与ふるもののなく
植田とよき
かなかなや公園の子等もうゐない
前山真理
ふつと沸きはたと止みけり蟬しぐれ
石山紀代子
梅雨深し賛美歌の声裏返り
江口井子
雨の音ほのかにぬくし春を待つ
栗林圭魚
空蟬の登る姿勢を崩すなく
松井秋尚
大阪の風生ぬるき茅の輪かな
津田ひびき
湯灌了へし顔の和める涼新た
松原幸恵
黙禱の一分長し原爆忌
江口井子
生身魂腕立て伏せをもう五回
中川純一
名を呼べばほうたるひとつついて来る
平野哲斎
蟻が運ぶ大道具めく蟬の羽根
中野トシ子
生身魂孫のやうなる美人秘書
栃尾智子
コンクリにコンクリ色のなめくぢり
田中久美子
梅雨寒し名刺の浮かぶ小名木川
田代重光
何だかんだと言いわけを作ってどこかに遊びに行こうとするのが普通のことなのだが、この句の主人公は逆に家に居る口実を色々と作るのである。勿論残暑が厳しいこともその一つであるが、それだけではないだろう。もともと出て歩くのはそれ程好きな人でないことは確かなのだが、用を足して欲しいと思う側からすれば、それも困ったことなのである。多分いま話題に事欠かないコロナウイルスなどが託ける要因なのでは、と推測されるのである。
「でんぼ」とは関東ではあまり聞き慣れない言葉であるが、「できもの」とか「こぶ」の意味らしい。下五の「見てしまふ」から考えてこの句の場合、できものの意と取るのが正しいだろう。いかにも尤らしい顔をしてお経を上げている坊さんなのであるが、何だか不潔な感じがしてきたというのだろう。只のこぶであったら下五が活きてこない。
作者は最近ご夫君を亡くされた。そのお骨揚げの折、参会した人々が故人の遺骨がいかにもがっしりしているのをまのあたりにして、口々にそのことを言ったのだろう。もちろん喪主である作者を少しでも慰めようという心からである。長い闘病を看取っていて、作者はすっかり夏痩せしてしまっている。しみじみとしたペーソスが感じ取れる一句である。
『句集 晩緑』 朔出版 2019年刊 より
『句集 わが桜』 角川書店 2020年刊 より
『句集 晩緑』 朔出版 2019年刊 より
「知音」2017年1月号 知音集 より