市師走今日は売るぞとストレッチ
谷川邦廣
「知音」2020年3月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
「知音」2020年3月号 知音集 より
心地良き言葉ばかりやそぞろ寒
鏡味味千代
【講評】「心地良き言葉」とは、社交辞令のようなうわべだけの言葉のことでしょう。「ばかり」に否定のニュアンスがある上に、季語「そぞろ寒」が心情を代弁しています。作者が求めているのは、真実を穿つ言葉、触れれば血の出るような言葉なのでしょう。俳句も「心地良き言葉ばかり」になってはいけませんね。(井出野浩貴)
水底にしんと日の射す初もみぢ
緒方恵美
【講評】上五中七から秋の澄んだ水が見えてきます。「初もみぢ」を見てから水底をのぞきこんだのか、それとも水影から「初もみぢ」に気がついたのか、いずれにしても、秋の高く青い空までおのずと思い浮かびます。(井出野浩貴)
転びても泣かぬ児を褒め草紅葉
松井洋子
【講評】木々の紅葉は美しいものですが、さまざまな草の色づきにもしみじみとした味わいがあります。「草紅葉」という地面に近いところにあるゆかしい季語が、「転びても泣かぬ児」の低い視線と響きあうようです。(井出野浩貴)
何処からか羽根のふはりと秋の空
鏡味味千代
【講評】どんな鳥の羽根かは明確にされていません。ふわりと落ちてきた羽根は、青く澄んだ秋の空のはるかな高みから来たのかもしれません。折しも、北の地から渡り鳥がやってくる季節です。はるかなるものにふと思いを馳せたのでしょう。(井出野浩貴)
啄木鳥の音のジャズめきニューヨーク
小山良枝
【講評】セントラルパークの啄木鳥でしょうか。啄木鳥が木を突く音の形容として、新鮮でおもしろい句です。言われてみれば、そんなふうに聞こえるかもしれません。「啄木鳥」と「ニューヨーク」という意外な組み合わせが詩を生みました。思えば、ジャズも異文化の混淆から生まれた音楽でした。(井出野浩貴)
新米の光こぼさぬやうよそふ
小山良枝
【講評】炊く前の新米を掌にすくう場面はよく描かれますが、この句は炊き立ての新米です。「光こぼさぬやう」という表現に、杓文字をそっと扱う手つきが表現できました。(井出野浩貴)
豆畑の枯れそめ山は藍深め
小野雅子
【講評】豆は熟れると茎を土から引き抜いて収穫します。「枯れそめ」ということは、収穫されないまま冬を迎えたものかもしれません。そのうら寂しい畑を見下ろしている山の色が藍を深めたようだったというのです。季節のゆきあいの微妙なところを表現できました。(井出野浩貴)
魂迎遠くで父の声がする
深澤範子
【講評】盆の夕方、戸口で迎え火を焚いているのでしょう。虚子に「風が吹く仏来給ふけはひあり」という句があります。この句の場合は「仏」ではなく「父」ですから、いっそう身近に「けはひ」ではなく「声」を感じたわけです。なぜか「母の声」では成り立ちそうもありません。(井出野浩貴)
蜻蛉や空に結界あるがごと
黒木康仁
【講評】蜻蛉は自由に空を飛んでいるように見えますが、じっくり見ていると急に方向転換したり引き返したりしていることがわかります。生物学的にはテリトリーということでしょうが、それを「結界のごと」と表現した点がおもしろい句です。(井出野浩貴)
星ひとつふたつ流れて中也の忌
緒方恵美
【講評】中原中也の忌日は十月二十二日です。「星ひとつふたつ流れて」は、その季節の澄んだ夜空を思わせ、奔放な青春を過ごし三十歳で早世した中也の生涯と響きあうようです。(井出野浩貴)
( )内は原句
鹿尻を振りつつ車止めにけり
奥田眞二
星月夜夢判断の書の古りて
森山栄子
午後の日の移るは早し曼珠沙華
松井洋子
台風のあとを追ふかに上京す
山内 雪
師と仰ぐ人すでに亡し彼岸花
黒木康仁
(師と仰ぐ人すでになし彼岸花)
歩を進め行くほど鰯雲壮大
藤江すみ江
(鰯雲歩を進め行くほど壮大)
すぢ雲やはや届きたる今年米
辻 敦丸
(すじ雲やはや届きけり今年米)
色鳥や京はせいぜい五階建
島野紀子
夜更けまでビルの灯消えず秋の雨
飯田 静
新走り酌む莫逆の差し向ひ
奥田眞二
(あら走り酌む莫逆の差し向ひ)
盆の月めがね橋より出(い)で来たる
深澤範子
(盆の月めがね橋より出て来たる)
文語「来たる」に合わせて文語「出(い)づ」を使いましょう。
言葉交はすだけで嬉しき秋日和
鏡味味千代
(言葉交はすだけで嬉しや秋日和)
ままごとの皿にこんもり櫟の実
飯田 静
スマホ手に尻を牡鹿に小突かるる
奥田眞二
(手にスマホ尻をさ鹿に小突かるる)
秋の航宮居に舳先向けしより
森山栄子
(秋の航お宮に舳先向けしより)
紫苑剪る握りつやめく花鋏
松井洋子
女といふ重荷脱ぎ捨て秋桜
鏡味味千代
(女性とふ重荷脱ぎ捨て秋桜)
「女性」は社会的文脈で使う言葉です。有島武郎の小説は『或る女』でしょうか、それとも『或る女性』でしょうか。
身を捩る鮭の遡上を岸辺より
小野雅子
色なき風出土の杯のざらついて
森山栄子
台風の真つ只中に電話来る
深澤範子
秋の朝花見小路に塵の無く
鏡味味千代
縮緬を展べて耀ひ秋の水
藤江すみ江
(縮緬を展べて耀ひ水の秋)
身に入むや武人埴輪の向かう傷
辻 敦丸
(身に入むや武人埴輪の向かひ傷)
山葡萄甘しよ帰り道遠し
山田紳介
(山葡萄甘きよ帰り道遠し)
釣堀の水の流るる藤袴
千明朋代
手捻りの一子相伝小鳥来る
飯田 静
引く波は泡を残して秋の声
小山良枝
(去る波は泡を残して秋の声)
ワッと叫ぶやうに開きし海桐の実
奥田眞二
曼殊沙華女体神社の名もをかし
箱守田鶴
(曼殊沙華女体神社と名もをかし)
風に揺るる長さに剪りて秋桜
松井洋子
(風に揺る長さに剪りて秋桜)
「長さ」という体言を修飾しているので連体形「揺るる」に。
喧噪に紛ふことなく秋の蝉
中山亮成
いつせいに鷗散りけり海桐の実酒
小山良枝
竜胆の蕾きりきり左巻き
小野雅子
考に似し人に歩を止め秋の暮
松井洋子
村人の立てし幟に蜻蛉来
山内 雪
大空を使ひ切つたる鵙の声
緒方恵美
細長く風吹きゆけり芒原
矢澤真徳
糸屑のやうに果てけり曼殊沙華
千明朋代
漬物の重石に由来秋日和
森山栄子
見沼野にはぐれて聞くや荻の声
箱守田鶴
(見沼野にはぐれて聞くや荻野声)
茶の花や箒目みだし寺の猫
松井洋子
言ふべきを呑み込みにけり暮の秋
鏡味味千代
癌検査再検査とぞそぞろ寒
中山亮成
蔦絡む塀の長々大使館
飯田静
ありなしの風に揺れそむ藤袴
小野雅子
(ありなしの風に揺れそみ藤袴)
目につくは鴉ばかりや秋の暮
山内 雪
焼栗の煙目にしむ鼻にしむ
黒木康仁
(焼栗の煙が目にしむ鼻にしむ)
武者窓を突き抜け走る稲つるび
辻 敦丸
(武者窓へ突き抜け走る稲つるび)
山葡萄採る時兄の逞しき
山田紳介
水音に少し遅れて添水鳴る
緒方恵美
議事堂を浮かび上がらせ秋灯
飯田静
コスモスの親しき高さ南阿蘇
森山栄子
寝しづまる甍今宵の月に映え
松井洋子
音もなく星も流れて遠花火
巫 依子
不在なる母の軒先秋の薔薇
三好康夫
雨脚の強くなりけり山葡萄
山田紳介
木犀や朝を知らせる街の音
長坂宏実
(金木犀朝を知らせる街の音)
上五も下五も名詞という型もありえますが、上五を「や」で切る型の方が効果的なことが多いようです。
我が窓に飛んできたりぬいぼむしり
千明朋代
各人が選んだ五句のうち、一番の句(☆印)についてのコメントをいただいています。
■小山良枝 選
オーストラリア在住、50代、知音歴5年
畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
人生にピリオド幾つ水引草 依子
煙立つ一つ一つの墓の秋 真徳
何処からか羽根のふはりと秋の空 味千代
☆牛蒡引く田舎の父の匂ひする 範子
牛蒡の土の匂いと無骨な様を、お父さんに重ねたのでしょう。
飾り気のない素直な表現と季語が良く合っていると思いました。
■山内雪 選
北海道天塩郡在住、60代、知音歴3年
畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
細長く風吹きゆけり芒原 真徳
「座禅中禁入門」木の実落つ 眞二
議事堂を浮かび上がらせ秋灯 静
☆糸屑のやうに果てけり曼朱沙華 朋代
なるほど枯れたら糸屑のようになりそう。当たり前のことかもしれないが、新鮮だった。
■飯田静 選
東京都練馬区、60代、知音歴9年
畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
午後の日の移るは早し曼珠沙華 洋子
鈴鳴らす人の歩かぬ栗の道 宏実
啄木鳥の音のジャズめきニューヨーク 良枝
☆大空を使い切つたる鵙の声 恵美
雲一つない青空に鵙の甲高い声が響いている景を思い浮かべます。
■鏡味味千代 選
東京都足立区在住、40代、知音歴9年
冷やかや朝の雨音しろじろと 康夫
虫の音のふと聞こえふと消えてをり 優美子
手捻りの一子相伝小鳥来る 静
新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
☆「座禅中禁入門」木の実落つ 眞二
木ノ実が落ちる音を感じられるくらい、その場がしんとしているのでしょう。
ただ、入門を禁じている人間世界には関係なく、木ノ実は音を立てて落ちているのだと、可笑しみも感じました。
■千明朋代 選
群馬県みどり市在住、70代、知音歴3年
稲架かけてお天道さまの匂かな 田鶴
新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
寝しづまる甍今宵の月に映え 洋子
星ひとつふたつ流れて中也の忌 恵美
☆吹き寄せや黄瀬戸の土鍋冬ぬくし すみ江
暖かいおいしそうな吹き寄せが現れました。
■辻 敦丸 選
東京都新宿区在住、80代、知音歴4年10ヶ月
転びても泣かぬ児を褒め草紅葉 洋子
茶の花や箒目みだし寺の猫 洋子
糸屑のやうに果てけり曼殊沙華 朋代
新米の重さつくづく水の国 栄子
☆そしてまた金木犀の香る頃 依子
時の流れの速さを実感する。
■三好康夫 選
香川県丸亀市在住、70代
大空を使ひ切つたる鵙の声 恵美
秋水の細くこぼるる音重し 洋子
雨脚の強くなりけり山葡萄 紳介
洗車する親子の会話天高し 道子
☆台風の真つ只中に電話来る 範子
台風に電話の音。緊張感が見事に詠まれている。
■森山栄子 選
宮崎県延岡市在住、40代、知音歴10年
十月や大歳時記を取り出して 一枝
虫の音のふと聞こえふと消えてをり 優美子
星ひとつふたつ流れて中也の忌 恵美
木犀や朝を知らせる街の音 宏実
☆手捻りの一子相伝小鳥来る 静
ひたむきに作陶に打ち込む姿、柔らかな光が差し込んでいる窓。小鳥来るという季語に希望を感じます。
■小野雅子 選
滋賀県栗東市在住、70代、知音歴7年
水底にしんと日の射す初もみぢ 恵美
台風の真つ只中に電話来る 範子
漬物の重石に由来秋日和 栄子
柿たわわここふるさとと決めやうか 田鶴
☆稲架けてお天道さまの匂かな 田鶴
実りの秋への賛歌。「お天道さま」の措辞に自然への畏怖と感謝が感じられます。
■長谷川一枝 選
埼玉県久喜市在住、70代、知音歴6年
あら走り酌む莫逆の差し向ひ 眞二
色鳥や京はせいぜい五階建 紀子
新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
名月よと掛け来る電話父さん子 すみ江
☆そしてまた金木犀の香る頃 依子
17文字の中に物語がひとつ潜んでいるような感じを持ちました。
■藤江 すみ江 選
愛知県豊橋市在住、60代、知音歴23年
赤蜻蛉の赤も寂しき峡の秋 真徳
啄木鳥の音のジャズめきニューヨーク 良枝
ありなしの風に揺れそむ藤袴 雅子
茶の花や箒目みだし寺の猫 洋子
☆畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
声を踏まぬやう この表現上手だなあと感心しました。
通りすがりに聞こえ来る虫の音 邪魔をしたくないという作者のやさしさを感じます。
■箱守田鶴 選
東京都台東区在住、80代
転びても泣かぬ児を褒め草紅葉 洋子
新米の重さつくづく水の国 栄子
山葡萄採る時兄の逞しき 紳介
議事堂を浮かび上がらせ秋灯 静
☆売れぬかも知れぬ牛行き秋終はる 雪
大切に育てた牛を売りに出した。乳牛として食肉として最後には皮革として人間の役に立つ牛が哀れだ-売れても売れなくても。
■深澤範子 選
岩手県盛岡市在住、60代、知音歴約10年
水底にしんと日の射す初もみぢ 恵美
冬近し遠見の富士に白きもの 眞二
人生にピリオド幾つ水引草 依子
竜胆の蕾きりきり左巻き 雅子
☆新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
新米のつややかさが伝わってきます。美味しいにおい、湯気も感じられます。
■中村道子 選
神奈川県大和市在住、80代、知音歴2年7か月
夜更けまでビルの灯消えず秋の雨 静
稲架かけてお天道さまの匂かな 田鶴
大空を使ひ切つたる鵙の声 恵美
売れぬかもしれぬ牛行き秋終はる 雪
☆コンビニの主役も変はりおでん鍋 新芽
気が付くといつの間にかコンビニのカウンター近くにおでん鍋が湯気を立てている。
季節の移り変わりを実感させる句だと思いました。
■島野紀子 選
京都府京都市在住、50代、知音歴9年
「座禅中禁入門」木の実落つ 眞二
水音に少し遅れて添水鳴る 恵美
午後の日の移るは早し曼珠沙華 洋子
道端の終はり知らずの胡桃採り しづ香
☆売れぬかもしれぬ牛行き秋終はる 雪
珍しい牛の市場の景、新年を前に牛を高値で売りたいがどうなるんだろうという不安が、秋終わる落ち葉の中で思案するのが浮かぶ。
■山田紳介 選
岡山県津山市在住、団塊の世代、知音歴20年
銀杏の落ちて校舎の静けさよ 宏実
漬物の重石に由来秋日和 栄子
糸瓜に相談しても埒の明かず 良枝
海めざし転がつてゆく檸檬かな 良枝
☆そしてまた金木犀の香る頃 依子
何があっても季節だけは前へ進んで行く。「そしてまた」と付け加えるだけで、万感が籠る。
■松井洋子 選
愛媛県松山市在住、60代、知音歴3年
境界線「陸軍」とあり大花野 一枝
大空を使ひ切つたる鵙の声 恵美
日溜りを拾ひつつゆく花野かな 良枝
引く波は泡を残して秋の声 良枝
☆新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
湯気立ててつやつやに炊き上がった新米のご飯。中七で詠み手の心情まで十分に伝わってくる。
■緒方恵美 選
静岡県磐田市在住、70代、知音歴6ヶ月
柏槙の葉越しに秋の陽の欠片 眞二
忘れ得ぬことの数々水引草 依子
縮緬を展べて耀ひ秋の水 すみ江
日溜りを拾ひつつゆく花野かな 良枝
☆新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
平明で簡潔な言い回しの中に、新米の艶・美味しさ更に香りまでを巧みに表現した一句。
■田中優美子 選
栃木県宇都宮市在住、20代、知音歴14年
星月夜夢判断の書の古りて 栄子
犬と人と猫のごろごろ日向ぼこ 新芽
新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
その中の一花閉ぢざり濃竜胆 雅子
☆心地良き言葉ばかりやそぞろ寒 味千代
聞こえだけがよく中身の伴わない言葉の、胸の奥が冷えていく感覚が表されていると思いました。
■長坂宏実 選
東京都文京区在住、30代、知音歴1年
畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
蔦絡む塀の長々大使館 静
売れぬかもしれぬ牛行き秋終はる 雪
コンビニの主役も変はりおでん鍋 新芽
☆日溜りを拾ひつつゆく花野かな 良枝
少し寒い中にも暖かさを感じ、秋の花の香りも伝わってきます。
そんな花野に行ってみたいと思いました。
■チボーしづ香 選
フランスボルドー在住、70代
ままごとの皿にこんもり櫟の実 静
夜を寒み来し方の悔いふたつみつ 雅子
細長く風吹きゆけり芒原 真徳
不在なる母の軒先秋の薔薇 康夫
☆啄木鳥の音のジャズめきニュ―ヨーク 良枝
啄木鳥とジャズ面白い組み合わせとニュ―ヨークで閉めておしゃれな句。
■黒木康仁 選
兵庫県川西市在住、70代、知音歴4年
色鳥や京はせいぜい五階建 紀子
大空を使ひ切つたる鵙の声 恵美
細長く風吹きゆけり芒原 真徳
松手入鋏の捌き小気味好し 亮成
☆海めざし転がってゆく檸檬かな 良枝
海の青色、レモンの黄色、空の青さもみえてきて、檸檬のいきおいに爽やかさも感じられます。
■矢澤真徳 選
東京都文京区在住、50代、知音歴1年
畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
転びても泣かぬ児を褒め草紅葉 洋子
大空を使ひ切つたる鵙の声 恵美
ミルクティーに生姜ぷかりと日曜日 栄子
☆不在なる母の軒先秋の薔薇 康夫
不在なるがゆえにいっそう母が大切に育てた秋の薔薇に母の存在を感じ、
薔薇の美しさが鮮やかに目に入ってくる。
■奥田眞二 選
神奈川県藤沢市在住、80代、知音歴8ヶ月
色鳥や京はせいぜい五階建 紀子
目につくは鴉ばかりや秋の暮 雪
夫の歩を待ちたる道の草の花 道子
洗車する親子の会話天高し 道子
☆啄木鳥の音のジャズめきニューヨーク 良枝
お洒落な句ですね。コロナ禍のN.Yにこのような刻が流れると良いですが。
■中山亮成 選
東京都渋谷区在住、70代、知音歴8年
曼殊沙華明日香の里は畦かさね 雅子
熟柿剥くこのペティナイフ人刺さず 眞二
夫の夜具そつと見にゆく夜寒かな 道子
茶の花や箒目みだし寺の猫 洋子
☆星月夜夢判断の書の古りて 栄子
ロマンの溢れる一句です。
■髙野 新芽 選
東京都世田谷区在住、30代、知音歴2ヶ月
言葉交はすだけで嬉しき秋日和 味千代
秋うらら見沼田んぼのドッグラン 田鶴
啄木鳥の音のジャズめきニューヨーク 良枝
ミルクティーに生姜ぷかりと日曜日 栄子
☆音もなく星も流れて遠花火 依子
シンプルな中に綺麗な情景が目に浮かびました。
■巫 依子 選
広島県尾道市在住、40代、知音歴20年
吹き寄せや黄瀬戸の土鍋冬ぬくし すみ江
畦を行くちちろの声を踏まぬやう 田鶴
細長く風吹きゆけり芒原 真徳
新米の光こぼさぬやうよそふ 良枝
☆星月夜夢判断の書の古りて 栄子
星の明るい夜空を見上げていると、誰しもが日常の次元から乖離しがち。とかく若い頃はその感も強く、日常の次元ではあり得ないようなことが登場する夢を見るにつけても、夢判断に心惹かれ、そうした本に夢中になってみたり。この句の作者も、年を経た今、星月夜を見上げ、もう今となっては古びてしまったそうした書籍を開くこともない自分に、若かりし頃の自分を思い出し、ちょっとした感傷に浸っているのではないでしょうか。それもまた、星月夜ゆえのノスタルジーとも。
「季語が動く」
季語が動く、という評を受けることが誰にでもあるでしょう。取り合わせの句では起こりがちなことです。では、動かぬ季語を見つけるにはどうしたらよいのでしょうか。捷径があろうはずがありませんが、先人の名句をたくさん読み、いわく言い難い呼吸を体に染みこませることが一番ではないかと思います。
生涯のいま午後何時鰯雲 行方克巳
うつしみは涙の器鳥帰る 西村和子
人生のある感慨を季語に託している点、空を仰いでいる点が共通していますが、この両句の季語を交換することはできるでしょうか。
答えは言わないでおきましょう。大切なのは、人の句を読むときも、自分の句を推敲するときも、その季語が最適かどうか常に考え続けることでしょう。(井出野浩貴)
※連絡
・2021年1月号から西村和子先生が「知音集」の選を担当されます。入選句を中心に必ず投句をしましょう。
・12月の「NHK俳句」に知音の仲間が出演するので是非ご覧ください。
Eテレ
12月20日(日)午前6:35~7:00
12月23日(水)午後3:00~3:25