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西村和子第三句集
『かりそめならず』
1993/9/30刊行
富士見書房

書かざりしことも閉じこめ日記果つ
子の部屋に声かけて寝る夜寒かな
シャガールを見に春装の靴青し
運動会午後へ白線引き直す
ひととせはかりそめならず藍浴衣
来ればすぐ帰る話やつりしのぶ
人生の夏の来向ふ初暦
受験子へ言ひ忘れなることなきや
芦の芽の切磋琢磨の光かな
雪女郎まなこの底の蒼かりし

~あとがきより~
昭和60年から平成3年までの作品を纏めて、第三句集とした。
夫の転勤で関西に移り住むことになった時、この地は私にとって他郷だった。だが西の風土に生活し、人々と出会い、古典のふるさとを訪ね、この地に馴染むにつれて、ここは私にとってかりそめの場所ではないと思うようになった。
句集名は、
ひととせはかりそめならず藍浴衣
から取った。清崎敏郎先生の「わが俳句鑑賞」にも取り上げていただいた、愛着の一句である。
ちょうどこの句稿を清書している時、第四十四回若葉賞の知らせをいただいた。この地での歩みが認められて、こんなに嬉しいことはない。