窓下集 - 1月号同人作品 - 西村和子 選
雲一朶まとひて気比の今日の月 江口 井子
寒禽も声控へをり虚子御墓所 栗林 圭魚
秋刀魚焼く七輪が好き落語好き 山田 まや
台風裡軒に守宮のへばりつき 松原 幸恵
エプロンに上着ひつかけ御命講 中野トシ子
秋蝶の雨の木陰に探し物 松井 秋尚
新酒酌む無器用な弟子愛すべく 中川 純一
二次会は蕎麦屋の二階新走 影山十二香
うんちくは聞いてゐるふり今年酒 松枝真理子
旨いとも好きとも言わず衣被 藤田 銀子
知音集 - 1月号雑詠作品 - 行方克巳 選
まつさきに象を見にゆく秋日和 中野のはら
街角に突如ジャズ湧き秋祭 島田 藤江
盗人萩黒ストッキングに執したる 栃尾 智子
敬老の日の我が貌はこんな貌 植田とよき
露の世の仮面外せばマンドリル 米澤 響子
強がりは言わず仕舞に草の花 橋田 周子
栗の薄皮剥く甲虫の翅みたい 吉澤 章子
キッチンを片付け我の夜長かな 山本 智恵
面影に添ひてこの街初しぐれ 原田 章代
会ふたびに遠くなる人サングラス 石原佳津子
紅茶の後で - 1月号知音集選後評 -行方克巳
まつさきに象を見にゆく秋日和 中野のはら
象と言えば、まどみちおの「ぞうさんぞうさん おはながながいのね そうよかあさんもながいのよ」がよく知られている。またサトウハチローにも「象のシワ」という詩がある。とにかく大人にとっても子供にとっても象は夢のような存在なのだ。動物園の一番中心になっているのが象舎。私は河馬を必ず見に行くが、象をカットすることは絶対にない。
作者は吟行で動物園を訪れたのであろうが、まっ先に象さんを見に行ったのだ。とにかく理屈ではなくて、子供のことからのなつかしい動物、それが象なのである。ちなみにのはらさんは最近『象のうた』という句集を出版した。
街角に突如ジャズ湧き秋祭 島田 藤江
秋祭というより「オータム・フェスタ」とでも言ったらいいような街の催しである。のんびりと歩いていると街路の一角で突如ジャズが鳴り響いたのである。オープニングの合図になっているのだろうが、その後しばらく街角にはジャズの演奏が流れるのである。最近このようなかたちの祭が随所で見られるようになった。勿論昔通りの秋祭も変わらず行われているのである。
盗人萩黒ストッキングに執したる 栃尾 智子
同じように秋の野原に遊んだのに彼女の黒いストッキングにびっしりと盗人萩がくっついてしまって、一つ一つ取るのにずいぶん手間がかかってしまう。やはりこやつも魅力的な黒いストッキングが好きなんだ。