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知音代表 西村和子が、この度、第八句集「わが桜」を上梓しました。

西村和子 第八句集
『わが桜』
2020/8/3刊行
角川書店
花便り待つや京にも我が桜

ひそかに思い決めた「わが桜」――見ることが叶わなくても、心によみがえらせ、詠む。平成26年から平成31年までの句を収めた第八句集。

◆自選12句
流水の通奏低温夏館
たんぽぽの絮は吹くより蹴つ飛ばせ
水音は冬へ落葉の音午後へ
菠薐草の子ふたりに血を分かち
花便り待つや京にも我が桜
うき世より一寸浮きて梅雨籠
草の根の力を恃み七日粥
枯れてなほみ仏に夢見る力
恋人より恋心惜し革手袋
身の内の隙間風聴く夜の底
流氷のひそと寄せ来てひしと組む
若布干す虫養ひにつまみつつ

◆「あとがき」より
前句集以後七十歳までの作品を纏めた。そのうち平成二十九年の一年間は俳句日記『自由切符』に収めたので、この年の句は少ない。
心ひそかに私の桜と思い決めて、毎年見にゆく花がある。ひとつは終の住処と定めた多摩川のほとりの老木。夫と最後の花見をした桜だ。樹下の輪から抜け出て来た青年が、シャッター押しましょうか、と撮ってくれた写真が今も居間に飾ってある。翌年からは、ひとりで花に語りかけている。
今ひとつは夫の菩提寺、京都の金戒光明寺の山門の桜だ。墓参のたびに仰ぎ、十五年になろうとしている。いずれ私もこの地に眠り、満開の枝越しに京の町を眺めることになるだろう。
毎年夏を過ごす群馬県草津にも、私の桜がある。五月の連休が過ぎた頃、のびのびとした総身にようやく満開を迎える色濃い花だ。ここでも句を詠みかけることにしている。
ところが今年の疫病流行で、京都にも草津にも行けなくなった。多摩川の土手の桜は、はやばやと蕾をつけ、例年よりも長い間花の枝をさしのべてくれていた。訪ねることが叶わなかった桜を思いつつ、第八句集の題名とした。