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2024年9月のネット句会の結果を公開しました。

◆特選句 西村 和子 選

早起きの男の子加はり梅を干す
佐藤清子
梅を干す時期は、毎年土用のころからであるから、ちょうど夏休みの始まりの時期と重なる。男の子はお手伝いのために早起きをしたのであろう。まだお手伝いを楽しいと思える年齢の子どもであることがわかる。毎年欠かさず梅干しを作る作者にとっては、興味を持って手伝ってくれることがこの上ない喜びである。(松枝真理子)

 

含羞草あれよあれよと葉を畳み
藤江すみ江
含羞草は刺激をすると、反応して細かい葉をたたみはじめる。ドミノ倒しのように、順番になめらかに。その様子を「あれよあれよ」と表現した。含羞草があたかも虫のように詠まれているところが、おもしろい。(松枝真理子)

 

当てにせぬ人現れて草を刈る
水田和代
草刈りを一人で始めた作者。すると、突然現れて、だまって草を刈り始める人が…。
この人物は読み手の想像に任されるが、「当てにせぬ人」と少し突き放した言い方をしているところが、近い間柄なのだと思わされる。このあと、お互いに黙々と草を刈り終えたのであろう。(松枝真理子)

 

夕張の夕焼け色のメロン食ぶ
穐吉洋子
オレンジ色の果肉が特徴の夕張メロンであるが、その色を「夕焼け色」としたところに工夫がある。産地の夕張は炭鉱町としてかつてはにぎわっていたが、炭鉱の閉山後は過疎化が進んだ。「夕焼け色」は北の大地の夕焼けだけでなく、そんなことまでも思いださせる。(松枝真理子)

 

茄子漬の色良く出来て朝ご飯
深澤範子
茄子の漬物の鮮やかな色が視覚に訴えてくる。下五の「朝ご飯」からは、「茄子がうまく漬かった。さあ、朝ごはんにしましょう」と、台所で作者がいそいそと家族の朝食を用意している光景が見えてくる。日常の些細な喜びを掬い取った句である。(松枝真理子)

 

夏草の威張り放題のび放題
五十嵐夏美
作者の家の庭の光景であろうか。雑草という名の植物は実際には存在しないが、この夏草はいわゆる雑草のたぐいであろう。どんどん増えてどんどん伸びるのがこの夏草。うっとうしいなあと思いながらも、その生命力には驚くばかり。中七下五の「~放題」のリフレインが効いている。(松枝真理子)

 

夜更けまでいかづち天を駆けめぐる
若狭いま子

 

梅雨の星一つ大きくむらさきに
深澤範子

 

日に向けてからころ鳴らすラムネ玉
中山亮成

 

涼しさや人待つ椅子の整然と
小山良枝

 

北国の地魚地酒暑気払
鈴木ひろか

 

ゆふぐれを灯して昏き盆提灯
小山良枝

 

 

◆入選句 西村 和子 選

涼しさや甲羅沈めて緑亀
(涼しげに甲羅沈めて緑亀)
板垣源蔵

一歩踏み入るや涼しき地獄峡
巫依子

揚花火スカイツリーを真向かひに
箱守田鶴

誰が置きし柄杓や八ヶ岳やつの岩清水
奥田眞二

花火落ち川面を風の渡りくる
(花火落ち川面に風の渡りくる)
箱守田鶴

音立てて烏降り来る朝曇
松井洋子

夏休風呂の窓より父子の声
鈴木ひろか

岩絵の具さらりと溶きて鹿子百合
木邑杏

水着着せられマネキンに海遠く
小山良枝

信号はいつも赤なり梅雨暑し
千明朋代

全力で飛び立つ雀梅雨深し
三好康夫

蜘蛛の巣の吹かるるたびにきらめけり
小山良枝

葛餅に刺す黒文字の香の仄か
森山栄子

蟬時雨脳の芯まで空つぽに
(蟬時雨脳(なづき)の芯も空つぽに)
辻本喜代志

風死すや九回裏の一点差
奥田眞二

草むしる両手の指の絆創膏
(草むしる左右の指の絆創膏)
三好康夫

雨しとど噴水誰も振り向かぬ
(雨しとど誰も振り向かぬ噴水)
松井伸子

笑ひ声聞こえてひとりアイスティー
石橋一帆

金魚釣ばしゃばしゃと手を突込んで
(ばしゃばしゃと手突込んで金魚釣)
福原康之

さざれ波寄せて蓮の葉揺れやまず
田中花苗

朝焼や寝たりぬままに外に出でて
水田和代

水脈を引き蛇の鎌首水面切る
中山亮成

雨涼し残されし日々慈しみ
(涼雨なり残されし日々慈しむ)
千明朋代

帰宅してなほ耳底に滝の音
(滝の音帰宅してなほ耳の底)
荒木百合子

音辿り屋根の隙間の遠花火
五十嵐夏美

土用波テトラポッドに体当たり
若狭いま子

珠紫陽花浅葱色にも濃き淡き
藤江すみ江

半夏生雨に浮かんでをりにけり
小山良枝

夏霧や音戸の瀬戸の波荒く
松井洋子

黒服のシャネルの売り子涼し気な
(涼し気なシャネルの売り子黒き服)
中山亮成

鯨島までを往復管弦祭
巫依子

涼しさや潮目くつきり色違へ
宮内百花

合歓の花夕空よりも紅深き
(夕空より深き紅なり合歓の花)
松井洋子

暮れ残る岬の涯の雲の峰
松井洋子

大いなる黒蝶来たりアガパンサス
藤江すみ江

塾通ひする子ら誰も日焼けして
(塾通ひする子の皆日焼けして)
鎌田由布子

軍配を涼しく受けて勝ち名乗り
箱守田鶴

光縒るごとくに空へ夏の蝶
小山良枝

青梅雨の岩宿遺跡音を絶え
千明朋代

夏草に傾いてあり捨小舟
森山栄子

機嫌よく生きたし生ビール美味し
水田和代

電線も黒き影持ち夏の暁
松井洋子

押入のものみな洗ふ夏はじめ
佐藤清子

原野ゆく電車一両花さびた
鈴木ひろか

この暑さかなわんなぁと鳩の尻
木邑杏

朝凪や一本道を灯台へ
森山栄子

羽衣のごとくなびいて金魚の尾
(羽衣のごとくなびゐて金魚の尾)
福原康之

暑気払ついでに四股を踏んでみる
森山栄子

管弦祭三度巡りて海昏し
巫依子

海霧ごめの軍用艦の岩のごと
鈴木ひろか

封筒に切手のあまた夏見舞
森山栄子

朝凉やベンチに一人ひとり掛け
石橋一帆

遠雷や犬いちはやく耳を立て
若狭いま子

幻の南瓜みやげに友来たる
佐藤清子

うたた寝や泳ぎ疲れし昼下がり
板垣源蔵

夏の午後ロビーの自動ピアノかな
鈴木ひろか

異国語溢れ表参道蝉しぐれ
中山亮成

母の日のわれいつまでも娘なる
箱守田鶴

蓋とれば葛うすうすと鱧の椀
(蓋とれば葛うすうすと鱧の艶)
小野雅子

山巓の空に現る夏燕
三好康夫

春の夕赤子の声の隣より
藤江すみ江

始まりを待つ間にビール干しにけり
巫依子

添書きに見栄を少々夏見舞
森山栄子

バンカラの応援ひびき夏盛ん
深澤範子

起重機のゆつくり動く夏の空
三好康夫