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平野哲斎句集
『ミラノ巻き』
2022/5/16刊行
角川文化振興財団

最愛の妻へ捧げる妻恋の句が胸を打つ、瀟洒で趣味人の著者の第一句集。

書家でもあった最愛の妻との別れをきっかけに六十代で俳句に取り組み始める。俳句を魂の棲家とし、ただ前を向いて新しい世界へ踏み出す十年間の日々を詠んだ第一句集。

◆著者略歴
平野 哲斎(ヒラノ テッサイ hirano tessai)
1948年、東京都生まれ。1974年、慶応義塾大学卒業後、野村證券入社。25年勤務後、日米仏の金融機関にて役員、代表取締役、顧問を24年務める。2011年、「知音」俳句会入会。現在、「知音」同人。俳人協会会員、国際俳句交流協会会員。観世流能楽を25年嗜む(観世流緑泉会、津村禮次郎師に師事)。


名を呼べばほうたるひとつついて来る

恋は思うひとの魂を乞うことーーー。
ほのかに口にしたその人の名にあまたの螢火の中のひとつがすうっと近付き、
彼の一歩一歩につき従う。
魂乞に応えたのは勿論いまはあの世にあるいとしき妻である。
作者の為人ひととなりにはどこか能の夢幻にも通じる憑依性があると私は思う。
(帯・行方克巳)

◆行方克巳選十句
マフラーをミラノ巻きして青山へ
啓蟄や港の船も心せく
ほほづゑの先は荒梅雨人を待つ
先達の二人欠けたり能始
遠き日の修羅を思へり夕牡丹
亡き妻の帯をベストに冬ぬくし
薄氷の綾なす風のかたちかな
剪定の小枝ばかりの堆く
名を呼べばほうたるひとつついて来る
金泥のすこし錆びたり秋扇