コンテンツへスキップ

2022年4月のネット句会の結果を公開しました。

◆特選句 西村 和子 選

バス停は岬南端春隣
鈴木ひろか
春を先取りしたくて、海へと足を延ばした作者。
バス停が岬の南端にあるという事実を淡々と詠んでいるが、それが「南端」であること、また軽やかな措辞が季語の「春隣」と響き合っている。
岬の先に広がる海の光景も見えてくる。
(松枝真理子)

 

園庭の子等皆薄着梅ふふむ
飯田静
通りかかった園庭をのぞくと、元気に子どもたちが遊んでいる。
その動きをなんとなく目で追っていると、存外薄着なのに気付いた。
ふと見ると、園庭の隅の梅がふくらんで開花間近である。子どもの方が大人よりも早く春を感じているのだ。
「梅ふふむ」とこれから成長する子ども達がリンクしていて、希望に満ちた明るい句である。
(松枝真理子)

 

三日月のいよよとんがり冴返る
藤江すみ江
春の月は「朧月」いう季語もあるように、かすんで見えることも多い。
だがそれと違い、この夜の三日月はますます尖ってみえた。それは寒の戻りで空気が澄み切っていたからでもあるし、作者の心象風景でもあろう。
「冴返る」の季語がよく効いている。
(松枝真理子)

 

城壁の石組固く梅白し
板垣もと子
作者の住んでいる町の城を詠んだ句と想像した。
城壁の石組みをまじまじと見て、その技術に圧倒されるばかりでなく、城が作られた時代にまで思いを馳せる作者。
「梅白し」からは、武士の凛とした立ち姿が思い浮かび、先人達の思いや覚悟までも伝わってくる。
(松枝真理子)

 

薔薇の芽の赤ぽつちりとみつちりと
小野雅子
句の前半と後半、それぞれに表現の工夫が見られる句である。
まず、「赤き薔薇の芽」ではなく、「薔薇の芽の赤」としたところに工夫がある。
これによって焦点が絞られ、読み手にはくっきりと薔薇の芽の赤みが見えてくる。
また、「ぽつちりと」「みつちりと」と促音を含んだリフレインが、薔薇の芽の様子を的確に表している。
(松枝真理子)

 

浮かびてはまた一句消ゆ風邪の床
田中優美子
風邪といっても程度は様々だが、作者の風邪はかなりひどかったようだ。
床に臥していると、いろいろな思いが巡る。俳句がふっと浮かぶ場合もあるが、書き留めておくほどの気力はない。うとうとしている間に消えてしまい……ということが何度か繰り返される。そして後から思いだそうとしても思い出せず、「惜しかった!名句だったかもしれないのに!」と思うのだ。
俳句を作る人なら誰もが共感する句である。
(松枝真理子)

 

リボン縦結びやバレンタインデー
森山栄子
小学校高学年、もしくは中学生くらいの子が、手作りのチョコレートを作ったのだろう。
なれない手つきでラッピングすると、どうしてもリボンが縦結びになってしまうのだが、母親から見るとなんとも微笑ましい。
季語以外の記述が「リボン縦結びや」だけであるにもかかわらず、光景がよく見えてくる。
省略のよく効いた句である。
(松枝真理子)

 

一水の光を返し猫柳
緒方恵美

 

自画像のあご尖りたる余寒かな
梅田実代

 

見送りの声の伸びやか春の朝
鏡味味千代

 

雪煙より現るる対向車
山内雪

 

梅散るや雨の香のこる散策路
岡崎昭彦

 

 

 

◆入選句 西村 和子 選

水草生ふきららきららと水光り
松井伸子

春雪の寺に幽閉されしかに
巫依子

春の夜の下りホームに別れけり
鎌田由布子

春の月遠きものほど美しき
田中優美子

春立つや登校の子等背筋伸び
穐吉洋子
(春立つや登校子等の背筋伸び)

剥落の不動明王節分会
千明朋代

大雪の道をなんとか車椅子
深澤範子

途中から襟立て歩く余寒かな
鈴木ひろか

売り声の行つたり来たり焼き芋屋
長坂宏美
(焼き芋を売る声の行つたり来たり)

長安にむかし仙人春惜しむ
松井伸子
(惜春やむかし仙人長安に)

揉み合うて野焼の火と火風と風
牛島あき

春の昼みんな帰つてしまひけり
山田紳介
(春昼やみんな帰つてしまひけり)

参拝を終へて見上ぐる冬夕焼
千明朋代

引綿のやうに夕雲春浅し
森山栄子

春の雨結論すこし先延ばし
長谷川一枝

立春大吉買物カート満載に
若狭いま子

無人駅乗客もなく春の月
鏡味味千代

山焼の熱気思はず退りけり
木邑杏
(山焼や熱気思はず退りけり)

うつつなき母枕辺の雛あられ
奥田眞二

山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ
深澤範子

梅が香やちちはは元気なりし頃
小野雅子
(梅が香やちちはは元気だつた頃)

早春の人まばらなる珈琲店
岡崎昭彦
(早春や声まばらなる珈琲店)

かの銀杏ひこばえ育つ実朝忌
奥田眞二

雪の夜の底に集配所の灯る
梅田実代

春ショール物産展の人波へ
田中優美子

客を待つ庭整へて雛の家
水田和代
(客を待つ庭整ひて雛の家)

寒晴れや大東京の果ていづこ
山内雪
(寒晴れや大東京の果てはどこ)

金縷梅の小声なれども陽気なり
小山良枝

急ぎ来る白鳥羽を怒らせて
宮内百花

風の音止みて風花とぎれけり
三好康夫

家鳴りの大きくひとつ冴返る
田中優美子

介護士の手のひら赤し寒戻る
松井洋子
(介護士の赤き手のひら寒戻る)

地図に無き径に迷へば茨の芽
松井洋子

黙々と飯平らげし受験生
鏡味味千代
(黙々と飯平らげる受験生)

ふらここを押す手の小さくこそばゆく
松井伸子
(ふらここを押す手ちひさくこそばゆく)

鏡面の輝き放ち薄氷
鎌田由布子

春寒し郵便受けのひんやりと
若狭いま子

お手植ゑの梅の蕾のひとならび
飯田静

凍返るたびに菜畑の色深め
松井洋子

雪解けて足跡のまづ透けにけり
鏡味味千代
(雪解けに足跡のまづ透けにけり)

教室にひとり残りて春の昼
山田紳介

青竹の茶杓の軽き初点前
千明朋代

冴返るこの頃増えし独り言
穐吉洋子
(冴返るこの頃増えぬ独り言)

幼子の尻もちとんと春の土
鈴木ひろか

春寒し石階降りるピンヒール
飯田静
(春寒し階降りるピンヒール)

囀や半熟玉子流れ出し
小山良枝

紅梅の遠目にほのとうちけぶり
荒木百合子

海からの風の和らぎ春めきぬ
鎌田由布子

室の花油彩の赤を使ひ切り
辻敦丸

自転車の轍重なる春の土
飯田静

盛り塩のやうに残れる春の雪
松井伸子

猫柳ふふむと見せてなほ固し
小松有為子

囀に呼び止められし大欅
飯田静

はためきてシーツ光れり春一番
松井洋子

仰ぎても青空ばかり初雲雀
長谷川一枝
(見上げても青空ばかり初雲雀)

子の点てし茶のまろやかに春隣
鈴木紫峰人

 

 

 

◆互選

各人が選んだ五句のうち、一番の句(☆印)についてのコメントをいただいています。

■小山良枝 選

恐竜の胃石のまろし春眠し 百花
ランドセル春の陽光跳ね返し 由布子
揉み合うて野焼の火と火風と風 あき
濃紅梅小さく咲きて香の深し 洋子
☆雪解けて足跡のまづ透けにけり 味千代
言われてみれば確かにそうですね。人か動物か分かりませんが、生き物の体温や息づきが足跡に宿っているようです。春の訪れを感じさせてくれる作品でした。


■飯田 静 選

時の気に匂ひ失せたる水仙花 依子
素通りや雪掻いて待つ郵便車
かの銀杏ひこばえ育つ実朝忌 眞二
梅ふふむ子等の手作り樹木札 ひろか
☆幼子の尻もちとんと春の土 ひろか
歩き始めたばかりなのでしょう。嬉しそうに歩いているうちについた尻もちを春の土が優しく受け止めてくれました。秋でも冬でも夏でもこの句は成り立たないとおもいました。

 

■鏡味味千代 選

伊豆の山遥けく望む実朝忌 眞二
蕗味噌を舐めつ疎開の話なぞ 眞二
春の月遠きものほど美しき 優美子
蒲生野の雪深々と石佛 敦丸
☆待春と題の出てより春親し 栄子
春の季語を意識し出すと、急に身の回りにこんなにも春が溢れていることに気づきます。他の季節と比べて、春は殊にそれを感じます。

 

■千明朋代 選

独活きざむ刃先指先渋きかな 田鶴
北天にデネブ輝き冬終る 真徳
つくばひに水琴窟に春兆す 栄子
子の灯す蝋燭ほのと雪あかり 紫峰人
☆鳥帰る柩にそっと比良の地図 百合子
亡くなった人の魂が、鳥と一緒に行く光景が描かれていると思いました。

 

■辻 敦丸 選

囀は田の神様の露払ひ 康仁
仰ぎても青空ばかり初雲雀 一枝
仏の座ながめ終はりて耕せり 実代
自転車の轍重なる春の土 飯田静
☆幼子の尻もちとんと春の土 ひろか
凍解けの土草が萌えはじめた春の喜びが生き生きと感じられる。

 

■三好康夫 選

自画像のあご尖りたる余寒かな 実代
天井に日の斑遊ばせ春炬燵 恵美
朝市の若布一盛り家苞に いま子
裸木の神経のごと枝の張り 亮成
☆素通りや雪掻いて待つ郵便車
残念。待ちましょう。

 

■森山栄子 選

自画像のあご尖りたる余寒かな 実代
カフェに待つ次の上映夕永し 林檎
子羊の余寒の中を生まれ来る チボーしづ香
花八手いつも何かを探しをり 優美子
☆恐竜の胃石のまろし春眠し 百花
恐竜のいた遥かな時間、胃石が形作られるまでの時間、いずれもゆったりとした流れがあり、春眠しというと言う季語と響き合っていると感じました。

 

■小野雅子 選

揉み合うて野焼の火と火風と風 あき
恐竜の胃石のまろし春眠し 百花
待春と題の出てより春親し 栄子
春や春ピザ生地宙に舞ひにけり 眞二
☆うつつなき母の枕辺雛あられ 眞二
お母様は病の床に伏しておられ、ほぼ夢の中にいらっしゃるのでしょうか。ひな祭りですよと伝える優しいお心に胸をうたれました。私も母に付き添いましたが、もっと優しくできなかったかと悔いばかりが残っています。

 

■長谷川一枝 選

冴返るこの頃増えし独り言 穐吉洋子
自転車の轍重なる春の土 飯田静
とれたての菠薐草に日の温み 松井洋子
蜆汁相も変はらぬ箸使ひ ひろか
☆種物屋季節外れのポスターも 良枝
近くに大型店が出来たので、小さな種物屋さんは暇になったのか古いポスターもそのままに。

 

■藤江すみ江 選

蜆汁相も変はらぬ箸使ひ ひろか
一水の光を返し猫柳 恵美
その影を束ねて着地スキージャンプ 栄子
とれたての菠薐草に日の温み 松井洋子
☆凍返るたび菜畑の色深め 松井洋子
ずっと日々 菜畑を眺めている作者  その変化を見逃すことのない作者の眼を感じます。

 

■箱守田鶴 選

うつつなき母の枕辺雛あられ 眞二
天井に日の斑遊ばせ春炬燵 恵美
幼子の尻もちどんと春の土 ひろか
餅花や皺しわの手もみじの手 範子
☆パンジーや笑ひ上戸の老姉妹 いま子
ご姉妹は昔から笑い上戸だったのでしょう。齢をとってもそのまんま。同じことを一緒に笑える仕合せがパンジーのように明るい。

 

■山田紳介 選

ハンカチのKの刺繍や春めける 清子
花八手いつも何かを探しをり 優美子
パンジーや笑ひ上戸の老姉妹 いま子
しゆるしゆると足袋の摺足初茶湯 朋代
☆大試験地下鉄四番出口より もと子
五十年前、東京で受験した時に東京住まいの兄が案内してくれた。前日最寄り駅から大学までの道程を一緒に歩いてくれ、この新宿厚生年金会館を目標にする様に、何回も念を押された。文字通り昨日の事のように覚えている。

 

■松井洋子 選

ランドセル春の陽光跳ね返し 由布子
揉み合うて野焼の火と火風と風 あき
家鳴りの大きくひとつ冴返る 優美子
掌にうつす大地の鼓動たがやせり 実代
☆雪の夜の底に集配所の灯る 実代
雪の夜の底という表現で、雪の深さ、冷たさ、暗さなどが一気に伝わってくる。そこに灯る明かりは、その地に生きる人たちの命のように感じられた。

 

■緒方恵美 選

引綿のやうに夕雲春浅し 栄子
春空や真青つらぬくけやきみち 昭彦
青竹の茶杓の軽き初点前 朋代
室の花油彩の赤を使ひ切り 敦丸
☆冬ざるる檻の中なる喫煙者 穐吉洋子
中七が端的に状況を表している。時代の流れですね… そのやるせなさを季語が代弁している。

 

■田中優美子 選

てのひらを重ねるやうに芽吹きけり 林檎
途切れたる話のすき間囀れる 田鶴
薔薇の芽の赤ぽつちりとみつちりと 雅子
またしても大嘘つかれ大雪よ 範子
☆春の雨結論すこし先延ばし 一枝
やんわりと降る春の雨に、そう結論を急ぐことでもないと思った作者。繊細な心理がうかがえます。

 

■チボーしづ香 選

梅散るや雨の香のこる散策路 昭彦
時の気に匂ひ失せたる水仙花 依子
一水の光を返し猫柳 恵美
春浅し初瀬の川の水速し 康仁
☆椿掃くそのままにとの声あらば 百合子
落ちたばかりの花びらが豪華で美しい椿の花を惜しむ声が印象深い。

 

■黒木康仁 選

人類は宇宙を目指しいぬふぐり 良枝
落語でも聞きに行かうか雪催 有為子
ぬくぬくし布団に籠る日の匂ひ 敦丸
幼子の尻もちとんと春の土 ひろか
☆仰ぎても青空ばかり初雲雀 一枝
初めて雲雀の声を聴いたのでうれしくなって見上げたのですが、そこには青空だけが残っていた。一種の空虚感でしょうか。

 

■矢澤真徳 選

雪解けて足跡のまづ透けにけり 味千代
発願のお百度参り涅槃西風 朋代
揉み合うて野焼の火と火風と風 あき
雪の夜の底に集配所の灯る 実代
☆相席の夫婦の会話しじみ汁 宏実
相席の人の会話は聞こうとしなくても耳に入ってしまうときがあります。少しの泥臭さまで旨味になっているしじみ汁のような夫婦の会話だったのかな、と想像しました。いかにもおいしそうで、実は味が抜けているしじみの身も気にせず箸でつつけるのも夫婦のいいところかな、とも思います(しじみの身など食べない上品なご夫婦だったかもしれませんが)。

 

■奥田眞二 選

冴えかへる小童黙る骨拾ひ 康仁
山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ 範子
疫神に朝寝の日々を賜りぬ 依子
雪礫投げし如くに梅咲きぬ もと子
☆ハンカチのKの刺繍や春めける 清子
ハンカチを四つに折り畳んだらKの字の刺繍が表れて出た。 プレゼントされた作者のイニシャルであろうか、はたまたあの時のーーなんて物語を考えてしまう。

 

■中山亮成 選

自転車の轍重なる春の土 飯田静
とれたての菠薐草に日の温み 松井洋子
春ショール物産展の人波へ 優美子
日常といふ名の平和草青む 百花
☆爪立ててすがる子猫の鼓動かな 百合子
情景がうかび、鼓動が効いてます。

 

■髙野新芽 選

海からの風の和らぎ春めきぬ 飯田静
鳥声のひと際空の春めける 雅子
春の月遠きものほど美しき 優美子
雪晴れの木立の影は水墨画 亮成
☆深き傷持ちてものの芽ふくらめり 松井洋子
春の期待と生命力が感じられる素敵な句でした。

 

■巫 依子 選

黙々と飯平らげし受験生 味千代
しゆるしゆると足袋の摺足初茶湯 朋代
相席の夫婦の会話しじみ汁 宏実
雪の夜の底に集配所の灯る 実代
☆雪もよひ木べらに潰すだまの数 実代
今夜は冷え込みそうだからホワイトシチューにしましょう・・・と、市販のルーを使わずに丁寧に作っている感じがいいですね。そうでありながらも、潰すだまの数ひとつひとつに、天候が悪くなっていくことへの鬱屈のようなものも感じられ、心憎いですね。

 

■佐藤清子 選

山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ 範子
深き傷持ちてものの芽ふくらめり 松井洋子
春宵のランプ数多に小樽駅 紫峰人
幼子の尻もちとんと春の土 ひろか
☆バス停は岬南端春隣 ひろか
まるでグーグルアースで焦点を合わせて行くように岬の南端にたどり着けました。故郷のバス停なのかもしれません。すっきりと言葉少なところが心地良く感じます。間もなく春が訪れる岬への想いが伝わってきました。

 

■水田和代 選

成人式かつてあの子は利かん坊 範子
浅き春みな福耳の羅漢さま 恵美
亡き父の夢まで見たる風邪の床 優美子
子羊の余寒の中を生まれ来る チボーしづ香
☆途切れたる話のすき間囀れる 田鶴
話が途切れてしんとした時に、鳥が合間を埋めるように囀り、また会話が戻ってきたのでしょう。一瞬がよく書けていると思いました。

 

■梅田実代 選

一水の光を返し猫柳 恵美
子の覗きゐる早春のポストかな 栄子
パンジーや笑ひ上戸の老姉妹 いま子
薔薇の芽の赤ぽつちりとみつちりと 雅子
☆人類は宇宙を目指しいぬふぐり 良枝
道端の小さく可憐な犬ふぐりの青から遠く広大な宇宙への発想の飛躍が見事です。

 

■鎌田由布子 選

落語でも聞きに行かうか雪催 有為子
三日月のいよよとんがり冴返る すみ江
一水の光を返し猫柳 恵美
バス停は岬南端春隣 ひろか
☆城壁の石組固く梅白し もと子
梅の花が咲いているがまだ寒さが残っている感じが石組固くから感じられました。

 

■牛島あき 選

薔薇の芽の赤ぽつちりとみつちりと 雅子
春の夜の下りホームに別れけり 由布子
仰ぎても青空ばかり初雲雀 一枝
声少し落とす予報士冴返る 康夫
☆バス停は岬南端春隣 ひろか
潮の匂いの風や眩しい海光がありありと想像され、「春隣」より相応しい季語があるだろうかと思いました。

 

■荒木百合子 選

海苔舟の帰り来海をしたたらせ 雅子
山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ 範子
日矢射して凍雲に穴ひらきけり 栄子
揉み合うて野焼の火と火風と風 あき
☆仰ぎても青空ばかり初雲雀 一枝
子供の頃、畑が沢山あった西賀茂に蓬摘みに連れて貰い、あとの蓬餅作りも楽しみでした。青空に雲雀の声、懐かしいです。

 

■宮内百花 選

ふらここを押す手の小さくこそばゆく 伸子
ひと粒のミモザの花のひかりかな 伸子
鳥帰る柩にそつと比良の地図 百合子
梅ひとつ咲きて記憶の戸を叩く 眞二
☆人類は宇宙を目指しいぬふぐり 良枝
まるで犬ふぐりのように、宇宙から見たら人間は何と小さな存在か。しかし、宇宙を目指すチャレンジ姿勢もまた、踏まれても立ち上がる犬ふぐりのようだ。

 

■鈴木紫峰人 選

幼子の尻もちとんと春の土 ひろか
とれたての菠薐草に日の温み 松井洋子
初蝶の吾を一回りして空へ 良枝
海苔舟の帰り来海をしたたらせ 雅子
☆揉み合うて野焼きの火と火風と風 あき
野焼きの紅蓮の炎が目に浮かぶようです。

 

■吉田林檎 選

バス停は岬南端春隣 ひろか
塩漬けの塩の結晶春浅し 由布子
リボン縦結びやバレンタインデー 栄子
冬ざるる檻の中なる喫煙者 穐吉洋子
☆自画像のあご尖りたる余寒かな 実代
自画像なのに、という点に面白みがあります。自分の横顔の特徴に改めて気づく感じに今さら感があり、春の寒さと響き合います。

 

■小松有為子 選

日脚延ぶ下校のチャイムはや鳴りて 一枝
天井に日の斑遊ばせ春炬燵 恵美
待春と題の出てより春親し 栄子
途切れたる話のすき間囀れる 田鶴
☆新聞のよもや来るとは吹雪の日
悪天候をついて届けて下さる配達員さんに脱帽ですよね。素直に詠まれていて好感です。

 

■岡崎昭彦 選

藁を食む牛よ羊よ春日和 チボーしづ香
マニキュアの赤を手に取り春隣 由布子
仏の座ながめ終はりて耕せり 実代
古書店に出会ひありけり蝶の春 林檎
☆雪解けて足跡のまづ透けにけり 味千代
春の雪は薄っすらと積もり、足跡を薄く残す。

 

■山内雪 選

フィアンセの話となりぬ春帽子 紳介
カフェに待つ次の上映夕永し 林檎
ふとん屋の盆梅ふふむアーケード 栄子
種物屋季節外れのポスターも 良枝
☆掌にうつす大地の鼓動たがやせり 実代
大げさな表現のようでついつい肯いてしまった。

 

■穐吉洋子 選

山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ 範子
室の花油彩の赤を使ひ切り 敦丸
人類は宇宙を目指しいぬふぐり 良枝
立春や子の声弾むまあだだよ 飯田静
☆朝日昇るごと稜線の野焼きかな
朝日が昇るにつれ稜線が照らされていく様子を野焼きに見たてみごと。

 

■若狭いま子 選

日常といふ名の平和草青む 百花
幼子の尻もちとんと春の土 ひろか
黙々と飯平らげし受験生 味千代
県境は地図上のこと蕗の薹 あき
☆春眠に天寿全うしたりけり あき
老いの身なれば、あやかりたい最期です。

 

■松井伸子 選

うつつなき母枕辺の雛あられ 眞二
春北風や電話の中の風の音 一枝
山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ 範子
海苔舟の帰り来海をしたたらせ 雅子
☆藁を食む牛よ羊よ春日和 チボーしづ香
「牛よ羊よ」の表現に温かいまなざしを感じました。当たり前が当たり前として輝く世の中でありますように。

 

■長坂宏実 選

マニキュアの赤を手に取り春隣 由布子
寝不足の目には眩しき春日かな 味千代
古書店に出会ひありけり蝶の春 林檎
藁を食む牛よ羊よ春日和 チボーしづ香
☆浮かびてはまた一句消ゆ風邪の床 優美子
風邪で寝込んでいる時、何か考えようとしてもまともにいかない様子が伝わってきました。

 

■木邑杏 選

吹かれたる芽柳に頬さすらるる いま子
浅春のツェルニーの指もつれたる 実代
一水の光を返し猫柳 恵美
山小屋の王者の如く暖炉燃ゆ 範子
☆春風に野生を乗せて馬頭琴 伸子
モンゴルの大草原を馬頭琴になった野生の馬が春風の中を駆け抜けていく。

 

■鈴木ひろか 選

子羊の余寒の中を生まれ来る チボーしづ香
雪煙より現るる対向車
花八手いつも何かを探しをり 優美子
今朝散りし山茶花跨ぐ赤き靴 真徳
☆介護士の手のひら赤し寒戻る 松井洋子
冷たい水で洗う事も多いと思われる介護士の働く手が見えるようです。

 

 

 

◆今月のワンポイント

「多読のすすめ」

多作多捨はみなさん実行なさっていると思うのですが、なかなか手が回らないのが多読です。

多読と言っても、何から読めばいいのかわからない方もいらっしゃるかもしれません。

まずは、西村和子先生や行方克巳先生の句集、そして好きな俳人がいればその人の句集を読むのがよいと思います。幅広く名句に触れたいのであれば、両先生の共著『名句鑑賞読本』がおすすめです。

優れた句を読んでいると、言葉の使い方や表現方法の工夫に気づきます。それが自らの栄養となり、今後の句作に大いに役立つことでしょう。

松枝真理子