コンテンツへスキップ

2022年2月のネット句会の結果を公開しました。

◆特選句 西村 和子 選

寒鯉や池に石橋太鼓橋
飯田静
橋のリフレイン、中七下五のiの音の連なりが、声に出すとリズミカルで心地よい句である。
凝った造りの二つの橋からは立派な庭園の池だということがわかり、寒鯉の季語から人気のない冬の静かな庭園が見えてくる。
(松枝真理子)

 

突然のスローモーション初雪は
矢澤真徳
「突然のスローモーション」とまず置かれていて、読み手は少しとまどう。何がスローモーションなのだろうか。しかも突然とは。
読み進むと、下五で種明かしがされる。ゆっくりと降ってくる雪に合わせるように、作者の眼には街の様子や人の動きがゆっくりと見えたのである。
省略が効いていて、斬新な倒置表現が成功した句である。
(松枝真理子)

 

雪婆お初天神この辺り
奥田眞二
雪婆を見たとき、作者は誰かしらの魂が浮遊しているような気がしたのではないだろうか。
しばらく目で追っていたが、見失ってしまうとここが「曾根崎心中」の舞台であるお初天神の近くだということに思い当たる。
そして、あの雪婆はお初だったのではないかと思いを巡らしているのだ。
季語を「雪螢」「綿虫」ではなく、「雪婆」としたことも計算の上のことだろう。
(松枝真理子)

 

初雪の機内放送着陸す
鎌田由布子
飛行機がいよいよ着陸体制に入るころ、機長からのアナウンスが入った。搭乗のお礼とともに、到着地では今年初めての雪が降っていることを告げたのだ。
中七の後の軽い切れが、機内放送から着陸までの時間の経過、その間の作者の弾んだ気持ちを表している。雪景色の空港、雪の世界へと足を踏み出す作者の姿まで想像できる。
(松枝真理子)

 

見るほどにつくりものめく烏瓜
田中優美子
烏瓜を見つけた作者であるが、立ち止まってまじまじと見入ってしまった。
色といい形といい質感といい、見れば見るほどまるで人間の手で作られたもののように思えてくるのである。
小さな発見を素直に詠んでいて、読み手の誰もが共感できる句である。
(松枝真理子)

 

師の選に初めて入りし納め句座
山内雪
納め句座とは、その年の最後の句会のことである。歳時記には掲載のないことが多いが、句会に参加する者として、積極的に使いたい季語である。
師走の忙しい中、時間をやりくりしてやっと参加できたその納め句座で、作者は初めて先生の選に入ったというのだ。その感激は想像に難くない。
納め句座がこのネット句会であったならば、初句会で特選に入り、作者のさらなる喜びはいかばかりだろうか。
(松枝真理子)

 

夜祭をむささびが見下ろしてゐる
松井伸子
秩父の夜祭のような大きな祭ではなく、集落の小さな夜祭を想像した。
一気に読み下す形が幻想的な光景を表すのに効果的に働き、読み手には暗闇から夜祭を見つめているむささびの姿が見えてくる。
さらには、むささびの目で夜祭を見ているような気もしてくるから不思議である。
(松枝真理子)

 

冬麗や早足誘ふスニーカー
岡崎昭彦
寒波が去り、久しぶりにおだやかな日である。
家に籠もってばかりではよくないと、お気に入りのスニーカーを履いて外に出た作者。
澄んだ空気が気持ちよく、冬のやわらかい日差しに魔法をかけられたように、気がつくとどんどん早足で歩いていたのだ。
「冬麗」の季語がよく効いている句である。
(松枝真理子)

 

耳飾り揺れてセーター真くれなゐ
松井伸子

 

煮えきらぬ難波男や近松忌
奥田眞二

 

落葉降るコントラバスの音に合はせ
長谷川一枝

 

帰り来し遺骨に障子開け放ち
巫依子

 

のぞみ号発車遅るる師走かな
巫依子

 

アパートの二階の端の聖樹の灯
吉田林檎

 

冬の川プラスティックの光りけり
小山良枝

 

 

◆入選句 西村 和子 選

いつせいに河口めざして都鳥
若狭いま子

日本語の通じる犬と日向ぼこ
梅田実代

短日の重きカーテン引きにけり
小野雅子

冬めくや車窓の先に空くすむ
岡崎昭彦
(冬めくや車窓の先にくすむ空)

残業や窓の向かうはクリスマス
田中優美子

鳥鳴けば少し明るき冬の雨
鏡味味千代

水鳥の水輪かさなる日和かな
梅田実代

窓枠にサンタクロースより手紙
森山栄子

木々の影くつきり朝の冬日差
箱守田鶴

白鬚橋くぐる曳船暮の秋
若狭いま子

霜晴やしだいしだいに海の色
巫依子

黄落の光を纏ひ市電来ぬ
松井洋子
(黄落や光を纏ひ市電来ぬ)

枇杷の花昔の切手持て余し
小山良枝

物干しを占領したり吊し柿
佐藤清子

皮手套選る節くれの指伸ばし
松井洋子

木枯や三解脱門吹き抜くる
梅田実代
(木枯の三解脱門吹き抜くる)

雲垂れて濃尾平野を時雨かな
矢澤真徳
(雲垂れて濃尾平野の時雨かな)

建てつけの悪き玄関虎落笛
山内雪

白銀に時に紫枯尾花
箱守田鶴

冬晴れの上総相模を一望す
鎌田由布子

ジョギングの少年ひとり冬夕焼
鈴木紫峰人

光りつつ千木の聳ゆる冬夕焼
千明朋代
(光りつつ千木の聳ゆる冬夕焼け)

師走の音溢るる町へ飛び込みぬ
鏡味味千代
(音溢るる町へ飛び込む師走かな)

西安の秋の正午の太鼓かな
若狭いま子
(西安の正午の秋の太鼓かな)

大川に沿ひつ離れつ枯野行く
三好康夫

嵯峨菊の乱れと優雅枯れてなほ
荒木百合子
(枯れてゆく嵯峨菊の乱れと優雅)

ベートーヴェンひびく窓辺の冬木立
緒方恵美

前列に冬至なんきん並べ売り
木邑杏

黒々と汽車過ぎ行くや冬の暮
山田紳介

休み時間告げるチャイムや寒桜
鏡味味千代

物干の下にちんまり日向ぼこ
板垣もと子

見送りて振り向きたれば雪蛍
若狭いま子

教会の大掃除して年暮るる
チボーしづ香
(教会の大掃除して年暮れる)

溪紅葉鉱山跡へ九十九折
森山栄子

クリスマス選び新車の届きけり
水田和代

霜柱敵とばかりに踏みにけり
鏡味味千代

徳川の墓を守るべく冬の鵙
梅田実代

冬ざれや自転車に蔓絡みつき
小山良枝

この波の彼方の島もクリスマス
松井伸子

クリスマスソング汽笛の消えてまた
梅田実代

番犬の大きな欠伸冬ぬくし
鎌田由布子

家中の布団干したる帰国かな
小山良枝

捥ぎたての柚子だけ置いて帰りけり
山田紳介

文机に小さき加湿器賀状書く
飯田静

大老の歌碑や冬日の届かざる
小松有為子

山眠る極彩色の来迎図
小山良枝

ハープより始まる二幕聖夜劇
鏡味味千代

年忘れ鬼も華やぐ大歌舞伎
岡崎昭彦

年ゆくか江ノ電つぶやき海に出づ
奥田眞二

かなしみを柚子湯の柚子に語りけり
田中優美子

山日和不意に翳せる長元坊
松井洋子
(長元坊不意に翳せる山日和)

葉牡丹の渦解れゆく日差しかな
小野雅子
(葉牡丹の渦解けゆく日差しかな)

崖の上の瀟洒な館冬怒濤
鈴木紫峰人
(崖の上の瀟洒な一軒冬怒濤)

極月やベイブリッジに休みなく
松井伸子

数へ日の鳩よろこばす水たまり
梅田実代

白髪をすつぽり覆ひ冬帽子
小野雅子

ハート抱く硝子の天使クリスマス
飯田静

冬の月こころ澄むまで窓に佇ち
若狭いま子

極月を鳴いて気の済む鴉かな
緒方恵美

石蕗の花時間止まりし屋敷かな
飯田静

十二月巣鴨駅前婆集ひ
中山亮成

一つづつ過去へ消えゆく除夜の鐘
奥田眞二
(除夜の鐘過去へ消えゆく一つづつ)

波頭つんつん尖り冬の海
鎌田由布子

 

 

◆互選

各人が選んだ五句のうち、一番の句(☆印)についてのコメントをいただいています。

■小山良枝 

ほつほつとみどりの混じる枯野かな 一枝
読み掛けの本を横目に賀状書く 一枝
大根炊く相撲中継ながめつつ
冬ぬくしマリア観音像に艶 百花
☆塗箸の貝きらきらと十二月 恵美
十二月はクリスマスや忘年会など特別な食事の機会が多い月です。十二月ならではの華やぎがあって好きな句でした。


■飯田 静 選

玻璃越しの光に和みシクラメン すみ江
小包にあれもこれもと冬ぬくし すみ江
息白し通学カバン斜交ひに 栄子
積み上げし机上整へ事始 雅子
☆番犬の大きな欠伸冬ぬくし 由布子
コロナでピリピリしている中、平和な景です。


■鏡味味千代 選

極月の締切ふたつ残しをり 和代
葉牡丹の渦ほぐれゆく日差しかな 雅子
一つづつ過去へ消えゆく除夜の鐘 眞二
小包にあれもこれもと冬ぬくし すみ江
☆この波の彼方の島もクリスマス 伸子
クリスマスは、知らない誰かの幸せをも考える日だと思います。どこか知らない国の会ったこともない人にも、クリスマスが穏やかに来るように。そんな祈りを感じる句でした。


■千明朋代 選

今更のことの治まる小春の日 有為子
病む夫の喜寿の朝なり霜の華 有為子
命愛し山河ことさら薬喰 雅子
空つ風に子らの飛び出す持久走 清子
☆菰をまく松の竜鱗雄々しけり 亮成
松の堂々たる姿を詠い立派と思いました。


■辻 敦丸 選

音はみな谺となりて山眠る 恵美
枇杷の花昔の切手持て余し 良枝
いつせいに河口めざして都鳥 いま子
この海の付箋のごとし牡蠣筏 依子
☆包丁に体重のせてけふ冬至 あき
古くから無病息災、災厄を祓うために柚子湯に入ったり、粥や南瓜を頂く習慣がある。この句は敢えて南瓜の文字を入れていないが、冬至の日の光景が醸し出されてくる。


■三好康夫 選

仰がずに居れぬ青空より木の葉 あき
一つづつ過去へ消えゆく除夜の鐘 眞二
凍星や秘めたるままが良きことも 味千代
大福に残る米粒小六月 良枝
☆音はみな谺となりて山眠る 恵美
思い切りよく詠めている。


■森山栄子 選

波頭つんつん尖り冬の海 由布子
鳥鳴けば少し明るき冬の雨 味千代
爺と仔犬もつれつつ行く冬小径 すみ江
葉牡丹の渦ほぐれゆく日差しかな 雅子
☆短日の重きカーテン引きにけり 雅子
日差しを求める冬。短日と重きという言葉が響き合っていて、そこに実感が込められていると思います。


■小野雅子 選

老い桜はや冬の芽の溢れけり 眞二
煮えきらぬ難波男や近松忌 眞二
初雪の機内放送着陸す 由布子
夜祭をむささびが見下ろしてゐる 伸子
☆窓枠にサンタクロースより手紙 栄子
「サンタクロースはいるの」と聞かれ「信じなくなったら来なくなるんだよ」と答えた。三人の子供たちは長い間サンタクロースの存在を信じ「夜中に窓が開いた」と言ったこともある。お手紙はいいな。私もやってみたかった。


■長谷川一枝 選

小包にあれもこれもと冬ぬくし すみ江
寒鯉や池に石橋太鼓橋 飯田静
ハープより始まる二幕聖夜劇 味千代
切干の縺れほどいてゐるところ 良枝
☆やり残しのメモ書きなほす年用意 林檎
あれもこれもと書く連ねたメモ、何度もチェックを付け見分けられなくなりもう一度しっかり書き直した。暮れの忙しない様子が実感できました。


■藤江すみ江 選

クリスマスツリー天辺の星見つからぬ 栄子
白鬚橋くぐる曳船暮の秋 いま子
鴨もぐり小鴨がもぐり水蒼き 朋代
この海の付箋のごとし牡蠣筏 依子
☆帰り来し遺骨に障子開け放ち 依子
亡くなられた方へ、障子の向こうの親しみのある景色をみせてあげようと、障子を開けた優しさとその時の心情がみえ、いい句と思いました。


■箱守田鶴 選

番犬の大きな欠伸冬ぬくし 由布子
初雪の機内放送着陸す 由布子
音はみな谺となりて山眠る 恵美
建てつけの悪き玄関虎落笛
☆枇杷の花昔の切手持て余し 良枝
枇杷の実はは食べるのに、咲いている花ををみたことがありません。枇杷の花の切手も使われずにあるのでしょう。目立たない花なのでしょうか。 干支の切手なども時をすぎると使いにくくなります。共感の出来る句です。


■深澤範子 選

蜜柑剥くラメのマニキュア母の指 飯田静
読み掛けの本を横目に賀状書く 一枝
包丁に体重のせてけふ冬至 あき
残業や窓の向かうはクリスマス 優美子
☆白葱の光の棒や籠の中 紫峰人
白葱のつやつやとした光景が目に浮かびます。


■山田紳介 選

かなしみを柚子湯の柚子に語りけり 優美子
短日の重きカーテン引きにけり 雅子
霜柱敵とばかり踏みにけり 味千代
シナトラを聴きたるあの日クリスマス 一枝
☆飾りたきほどに美し霜柱 新芽
霜柱のことを「敵とばかり踏みにけり」とした別句がありましたが、その理由がこの句でしょうか。余りにも美しいので壊さずにはいられないのかも知れない。


■松井洋子 選

だましだまし眼使ひて冬籠 雅子
老い桜はや冬の芽の溢れけり 眞二
師の選に初めて入りし納め句座
凍星や秘めたるままが良きことも 味千代
☆帰り来し遺骨に障子開け放ち 依子
私も同じような経験がある。小さくなって帰宅した父に久しぶりの庭を見せたいと思ったのだ。その時の障子の白さや日差しが目に浮かぶ。


■緒方恵美 選

鴨のこゑまつたき入日惜しみけり 洋子
綿虫の目交過り日に溶けて 亮成
白葱の光の棒や籠の中 紫峰人
番犬の大きな欠伸冬ぬくし 由布子
☆犬の子の半額セールクリスマス 由布子
そういうセールがあるのを初めて知った。何とも言えぬ不憫さがなぜか心に残る一句。


■田中優美子 選

ハープより始まる二幕聖夜劇 味千代
風邪の子の染み一つなき肌かな 味千代
花八手通ひなれたる貸本屋 一枝
見送りて振り向きたれば雪螢 いま子
☆クリスマスソング汽笛の消えてまた 実代
港町の夜と思いました。汽笛の間だけ途絶えたクリスマスソングがまた耳に届く。作者は、船を見送ったあとなのか、そこに乗っていたのは誰なのか、そしてクリスマスソングを聞く心境は? 夜空の下、黒々と広がる海を思い浮かべながらたくさんの想像が広がり、心惹かれます。


■チボーしづ香 選

年忘れ鬼も華やぐ大歌舞伎 昭彦
建てつけの悪き玄関虎落笛
共にとるランチも奇縁冬うらら 林檎
煤のなき寺に叩きの煤払い 康仁
☆初雪の機内放送着陸す 由布子
簡潔に情景を読んでいる、私も同様な経験をしたことがあるので親近感を持った。


■黒木康仁 選

大声で君の名呼ぶや冬の海 範子
見送りて振り向きたれば雪螢 いま子
捨て置きのベンツに積もる散りもみぢ 百合子
犬の子の半額セールクリスマス 由布子
☆番犬の大きな欠伸冬ぬくし 由布子
なんともユーモアのある情景に冬ぬくしという季語がぴったりのように思いました。


■矢澤真徳 選

神官の悴み急ぐ石畳 百合子
触れたき手まだまだ遠きクリスマス 優美子
日記買ふ手間も嬉しき銀座かな 味千代
狐穴ありしや六本木あたり 伸子
☆白鬚橋くぐる曳船暮の秋 いま子
地名がとても効いている句だと思います。ずっと昔から変わらない人間の営みが、季節感とともに詠みこまれた味わい深い句だと思いました。


■奥田眞二 選

白葱の光の棒や籠の中 紫峰人
残業や窓の向かうはクリスマス 優美子
レントゲンエコーバリウム暮易し 良枝
包丁に体重のせてけふ冬至 あき
☆犬の子の半額セールクリスマス 由布子
単にクリスマスセールをしているペットショップの光景かもしれませんが私にはこの後のお子様たちの喜びが目に浮かび幸せな気持ちになります。昔子犬のシーズーが家に来た時の姉弟がキャッキャ喜んだ姿を思い出しました。


■中山亮成 選

寒鯉や池に石橋太鼓橋 飯田静
溪紅葉鉱山跡へ九十九折 栄子
今日よりは目高内住み避寒とて 百合子
山眠る極彩色の来迎図 良枝
☆「難民」の言葉のよぎりクリスマス 伸子
テレビでみる難民のニュースの現実に驚くことが多いです。各地で起こる難民のことを考えると、平和な日本のクリスマスに複雑な思いを禁じえません。


■髙野新芽 選

見送りて振り向きたれば雪螢 いま子
冬晴れや揺らぐことなき水たまり 昭彦
仰がずに居れぬ青空より木の葉 あき
師走の音溢るる町へ飛び込みぬ 味千代
☆冬の雨土の匂ひを呼び覚ます 味千代
冬独特の土の匂いを感じとった素敵な句だと思いました。


■巫 依子 選

初雪の機内放送着陸す 由布子
犬の子の半額セールクリスマス 由布子
秒針の音の大きくなる秋思 栄子
冬椿身ほとりそつと温めて 百合子
☆狐穴ありしや六本木あたり 伸子
昔から、人をだますずるいものの象徴とされてきた狐。六本木という地の人間模様に、これはもうきっと狐の仕業に違いないと・・・。そんな作者の想像が、狐穴ありしやという飛躍を生んだのであろう一句。なんともユニーク!


■佐藤清子 選

竈の火絶やさず一日味噌作る 和代
天井の高き館や室の花 飯田静
小包の蓋に一筆霙よと 雅子
波頭つんつん尖り冬の海 由布子
☆塗箸の貝きらきらと十二月 恵美
師走の忙しい中でバタバタすることもなく塗箸の貝のきらきらというところに着目して楽しんでいる余裕のの持ち方に惹かれます。また来る年も明るく感じ形も響きも好きです。


■水田和代 選

冬麗や早足誘ふスニーカー 昭彦
冬椿身ほとりそつと温めて 百合子
鎌倉へロングブーツは母のもの 伸子
帰る子を見送るための日向ぼこ もと子
☆その瞳泣くことなかれ冬の星 優美子
亡くなった子どもさんのことでしょうか。冬の星が悲しみを誘います。


■梅田実代 選

葉牡丹の渦ほぐれゆく日差しかな 雅子
山眠る極彩色の来迎図 良枝
飾りたきほどに美し霜柱 新芽
見るほどにつくりものめく烏瓜 優美子
☆塗箸の貝きらきらと十二月 恵美
イルミネーションが輝き、イベントの多い十二月。そんな月にきらきらしているのが塗箸の貝というのが意外性があり、慎ましくも日々を大切に丁寧に送る暮らしを思わせて惹かれました。


■鎌田由布子 選

極月の締切ふたつ残しをり 和代
日本語の通じる犬と日向ぼこ 実代
白鬚橋くぐる曳船暮の秋 いま子
花八手通ひなれたる貸本屋 一枝
☆信号を渡る托鉢冬うらら 雅子
以前に京都で見た光景と重なりました。


■牛島あき 選

皮手套選る節くれの指伸ばし 洋子
白菜を抱き上ぐ外葉踏みしだき 洋子
冬うらら櫟と楢の林抜け 一枝
ハート抱く硝子の天使クリスマス 飯田静
☆突然のスローモーション初雪は 真徳
そう言われてみれば確かに! 非凡な表現力に心を掴まれました。


■荒木百合子 選

残業や窓の向かうはクリスマス 優美子
病む人の両手で啜る玉子酒 真徳
煮えきらぬ難波男や近松忌 眞二
犬の子の半額セールクリスマス 由布子
☆霜晴やしだいしだいに海の色 依子
京都に生まれ育ち、山は毎日見るけれど海は非日常の私。車窓に海が見えると「あっ。海!」と新鮮です。この句は未だ見たことのない景ながら、きっとそうでしょうと私に思わせるのです。


■宮内百花 選

極月を鳴いて気の済む鴉かな 恵美
塗箸の貝きらきらと十二月 恵美
病む夫の喜寿の朝なり霜の華 有為子
窓という窓を綺麗に冬夕焼 宏実
☆白葱の光の棒や籠の中 紫峰人
日差しを浴びて、白い部分がほんのりと透き通っているように感じられる。「光の棒」としたことで、土籠からはみ出た白葱が、冬の太陽の柔らかな日や雪に埋まっていた白い部分が、思う存分太陽の恵みを受け、喜んでいるようだ。


■鈴木紫峰人 選

見送りて振り向きたれば雪螢 いま子
煮えきらぬ難波男や近松忌 眞二
冬の虹古墳の丘へ触れにけり 栄子
冬椿身ほとりそつと温めて 百合子
☆光りつつ千木の聳ゆる冬夕焼 朋代
荘厳な冬の風景が描かれ、夕焼けの色が心に広がります。


■吉田林檎 選

いにしへの唄口遊む息白し 昭彦
この波の彼方の島もクリスマス 伸子
初雪の機内放送着陸す 由布子
ハープより始まる二幕聖夜劇 味千代
☆短日の重きカーテン引きにけり 雅子
太陽が昇っている時間があまりに短いのでカーテンを閉めるのも憂鬱。そのカーテンの重さからは物理的なものだけではなく心理的な重さも感じられます。


■小松有為子 選

凍星や秘めたるままが良きことも 味千代
年忘れ鬼も華やぐ大歌舞伎 昭彦
行ってみたきものに古書市年惜しむ
黄落や古道と伝ふ石まろく 栄子
☆仰がずに居れぬ青空より木の葉 あき
景の大きさと色彩、自然のいたずら。楽しい御句ですね。


■岡崎昭彦 選

鴨もぐり小鴨がもぐり水蒼き 朋代
今更のことの治まる小春の日 有為子
霜晴やしだいしだいに海の色 依子
老い桜はや冬の芽の溢れけり 眞二
☆寒風に吹きしぼらるる船の旗
「吹きしぼらるる」に惹かれました。


■山内雪 選

一つづつ過去へ消えゆく除夜の鐘 眞二
だましだまし眼使ひて冬籠 雅子
教会の大掃除して年暮るる チボーしづ香
冬ざれや自転車に蔓絡みつき 良枝
☆花八手通ひなれたる貸本屋 一枝
一読なつかしさでいっぱいになった。花八手の例句を読んでみて益々この句が好きになった。


■穐吉洋子 選

建てつけの悪き玄関虎落笛
冬夕焼セピアカラーに街を染め 由布子
山呼べば冬の支度と又三郎 敦丸
セロテープ褪せし字引や冬に入る 栄子
☆蜜柑剥くラメのマニキュア母の指 飯田静
女性は幾つになってもおしゃれはしたいものですよね。ラメ入りのマニキュアにお洒落なお母さま様子が伺えます。


■板垣もと子 選

朝まだきカーブミラーに霜の花 一枝
一塵の迷ひも捨てよ寒昴 優美子
セロテープ褪せし字引や冬に入る 栄子
耳飾り揺れてセーター真くれなゐ 伸子
☆夜祭をむささびが見下ろしている 伸子
ムササビの寂しさと夜祭の賑やかさとが1句の中にあり、物語のようです。


■若狭いま子 選

むせび泣く女の所作も近松忌 眞二
一つづつ過去へ消えゆく除夜の鐘 眞二
指のごと風切り羽を広げ鷹 百合子
コート衿立てゐれば直し呉るる人 百合子
☆竈の火絶やさず一日味噌作る 和代
この句より、かつて味噌作りをしていた体験が甦ってきました。麹や大豆の調達から塩加減まで忙しく過ごしました。手間をかけて仕上がった味噌は手前味噌ながら、香りもよくおいしく感じました。今は既製品しか味わえませんので、とても羨ましく思います。


■松井伸子 選

帰り来し遺骨に障子開け放ち 依子
風邪の子の染み一つなき肌かな 味千代
皮手套選る節くれの指伸ばし 洋子
師の選に初めて入りし納め句座
☆包丁に体重のせてけふ冬至 あき
何と戦っているのか目に見えるようです。一番初めに印象に残りました。


■長坂宏実 選

冬晴れや揺らぐことなき水たまり 昭彦
冬ぬくしマリア観音像に艶 百花
番犬の大きな欠伸冬ぬくし 由布子
ガシガシの冬至南瓜を切る音か もと子
☆日記買ふ手間も嬉しき銀座かな 味千代
来年への期待や銀座でのお買い物のわくわくした気持ちを感じました。

 

 

◆今月のワンポイント

「類句について」

先生から類句のご指摘がありましたので、みなさんと共有したいと思います。

白葱の光の棒や籠の中

白葱の光の棒をいま刻む   黒田杏子

俳句は十七音の短詩であり、たくさんの句を作っていく上で類句は避けられないものです。
もし指摘されたら、難しく考える必要はありません。単に引っ込めるだけのことです。つまり、その句を結社誌や俳句大会などに投句しなければよいのです。
類句は誰にでもありうることですが、句会に出せば選者や仲間がきちんと指摘してくれますので、恐れずに句を作り続けていくことが大切です。

松枝真理子