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2022年1月のネット句会の結果を公開しました。

◆特選句 西村 和子 選

ひと雨のあとの日ごとの柿落葉
緒方恵美
雨があがり、柿の葉の落葉に気づいた作者。きれいに色づいたまま散る柿の葉は、ことさら目をひく。一度散り始めると、落葉はどんどん加速していくが、その様子を「日ごとの」と表現した。柿落葉の鮮やかな色が、かえって冬のうら寂しい感じを際立たせている。(松枝真理子)

 

万国旗低きに張りて運動会
小松有為子
運動会の定番の万国旗だが、この句のポイントは「低きに張りて」である。わざわざ低くするということは、運動会の主役は小さい子どもたち、幼稚園か保育園の運動会なのだろう。子どもたちの精一杯の姿だけでなく、心を砕いて準備をしてきた先生や保護者の姿も見えてくる。(松枝真理子)

 

底冷えの駅に一番星きれい
小野雅子
しんしんと足元から冷える日、作者は一日の予定を終えて帰路につくべく電車を待っている。ふと仰いだ空には一番星が瞬いていて、思いがけないプレゼントのように感じられた。「きれい」という素直な表現が、一番星と響き合って効果的である。足元から頭上、星空の彼方へと視線が大きく広がっていく。(松枝真理子)

 

芋茎ゆで煮付酢の物炒め物
千明朋代
たくさんの芋茎を少しも無駄にはしないという、作者の主婦としての矜持が感じられる。「料理上手な人は俳句もうまい」というのは師のことばであるが、作者のような人のことであろう。旬の野菜などの季語で同じような句ができるかもしれないが、芋茎が成功している。音読してもリズムのよい句である。(松枝真理子)

 

カメラマン屈んでばかり七五三
鏡味味千代
少し前までは、家庭での行事でシャッターを押すのは父の役目であったが、この頃の七五三参りでは、プロのカメラマンを帯同している家族をよく見かける。この句もそんな光景を詠んでいるのであろう。「屈んでばかり」に作者の観察の目が利いている。着飾っている子どもを追うカメラマンの懸命な様子が見えてくる。(松枝真理子)

 

木の葉髪くすり飲んだと声掛けて
長谷川一枝
ある程度年齢を重ねた夫婦の光景であろう。夫が薬を飲み忘れていると気付いた作者。賢明な作者は、ストレートに指摘するのではなく、「薬飲んだ?」とさりげなく尋ねるふりをしているのだ。季語の木の葉髪から、夫婦の年齢だけでなく、暮らしぶりなどまで想像できる。(松枝真理子)

 

カーテンの房の豊かに冬館
小山良枝
カーテンは部屋の防寒の重要なアイテムである。房飾りの立派なカーテンは、庭に面した大きな窓にかけられていて、ひだのたっぷりとられた厚手で重厚なものだと想像できる。カーテンの房を詠むことで、カーテンのかけられた部屋の様子、そして冬支度を終えた洋館のたたずまいが見えてくる。さらにはクリスマスの飾りで彩られる様子にまで想像が広がる。(松枝真理子)

 

草枯れて枯れて幾何学的模様
松井伸子
土手や野原の枯草の様子を想像した。「枯れて」を重ね、草の枯れきった様子を表現したところに工夫がある。それらの草が折れたり傾いたりしている様が、作者には「幾何学的模様」に見えたのである。幾何学的模様が人為的な形だけに、破調の形も成功している。また、Kの音の連なりが小気味よい。(松枝真理子)

 

かへりみし処にまたも雪螢
巫依子
どのような場面かはわからないが、ふと振り返ったときに雪螢を見つけた作者。つい今しがた自分が歩いてきたあたりを雪螢が浮遊しているのである。また前を向いて歩き出すが、雪螢の姿はまったく見られない。だが、再び振り返ると同じように雪螢がふわふわしているのだ。予期せぬ時に遭遇する雪螢は、探そうと思うとなかなか見つけられないものである。雪螢の特性をうまく表現している。(松枝真理子)

 

閻王の口中真赤冬紅葉
三好康夫

 

七五三ついでに母も褒められて
梅田実代

 

立冬やペダル踏むとき深呼吸
松井伸子

 

素うどんの湯気や勤労感謝の日
梅田実代

 

大鳥居再建未だ七五三
穐吉洋子

 

吾が影を連れて初冬植物園
飯田静

 

◆入選句 西村 和子 選

誇るべき何ものもなし冬の虹
山田紳介

大いなる洗濯板よ秋の雲
小松有為子
(大いなる洗濯板や秋の雲)

山茶花や父の好みし白一重
荒木百合子

空港に別れて一人雪もよひ
鎌田由布子

ランドセル落葉を蹴つて楽しさう
鎌田由布子
(落葉蹴つて楽しき頃やランドセル)

ベランダの月光集めハーモニカ
箱守田鶴
(ベランダの月光をハーモニカに集め)

銀杏黄葉並木かつては滑走路
飯田静
(銀杏黄葉並木のかつて滑走路)

数字より大切なこと冬銀河
田中優美子

秋の日やふふんふふんと夫の留守
長谷川一枝
(秋の日や鼻唄ふふんと夫の留守)

深秋の誰にも会はぬ散歩かな
森山栄子

藁焼きの煙むらさき冬隣
辻敦丸
(藁焼きの紫立ちぬ冬隣)

椅子の皮張り替へ冬に入りにけり
小山良枝

冬の靄スワンボートは尻並べ
松井洋子

加茂川の飛石渡る小春空
木邑杏
(飛石で渡る加茂川小春空)

蒲の絮弾けてよりのむくつけき
牛島あき
(むくつけく弾けてよりの蒲の絮)

甘藷掘の畑一枚賑やかに
佐藤清子

加茂川の流れ大らか草紅葉
木邑杏

ひとつづつ肩の荷下ろし冬仕度
田中優美子
(ひとつづつ肩の荷下ろし冬用意)

峡もみぢトロッコ列車最徐行
荒木百合子
(峡はもみぢトロッコ列車は最徐行)

秋茜石の温みに翅を伏せ
中山亮成

冬の夜をつんざき走る赤色灯
田中優美子

ことのほか山暮れ易し地酒酌む
小山良枝
(ことのほか山暮易し地酒酌む)

焙煎の香の芳しき小六月
飯田静

茸狩り声掛け合ひて山に入る
穐吉洋子

ゆで卵きれいに剥けて今朝の冬
長谷川一枝

しぐるるやただいまと言ひ部屋灯す
吉田林檎
(しぐるるやただいまと言ひ灯す部屋)

白壁の旧家さざんくわ散り敷ける
水田和代

黄落や朽ちゆくものに日の当たり
牛島あき

庭椅子に主のをらず冬に入る
鎌田由布子

冬服のボタン全開男の子どち
吉田林檎

ゆうらりと皇帝ダリア垣根越し
佐藤清子

街の灯の瞬き残る冬の朝
穐吉洋子

飛騨望む合掌造り冬支度
奥田眞二
(飛騨望む合掌造りの冬支度)

冬めくやがさがさ畳む包装紙
若狭いま子

秋の薔薇おつかれさまと声掛けて
長谷川一枝

公園の砂場埋められ年の暮
鎌田由布子

自転車を連ね登校豊の秋
森山栄子
(自転車を連ね通学豊の秋)

ファミレスの隅に句談義小鳥来る
山内雪

紅葉且つ散る草庵に待ち侘びぬ
巫依子

夜の雨いつしか霰屋根を打ち
鈴木紫峰人
(夜の雨いつか霰の屋根を打ち)

大利根を渡りて武蔵冬に入る
穐吉洋子

遠まはりして柊の花の道
緒方恵美

茸取れば掌に吸ひ付いてくる湿り
荒木百合子

黄昏の街へコートを翻し
小野雅子
(黄昏の街へコートを翻す)

おはやうと言へる幸せ今朝の冬
田中優美子

来年の暦を売りに消防士
チボーしづ香
(消防士来年の暦売りに来る)

温室の硝子磨かれ冬に入る
飯田静

不用品仕分け時かけ冬隣
千明朋代
(不用品の仕分け時かけ冬隣)

冬ぬくし猫の守れる登り窯
松井洋子
(冬ぬくし猫の守りたる登り窯)

綿虫の水色となる近さまで
小野雅子

物置の木馬も時に日向ぼこ
松井伸子

冬の虹見るため車止めにけり
山田紳介

冬紅葉隙の青空結晶す
三好康夫

乗り合はす三つ子の白き毛糸帽
若狭いま子
(乗り合はす三つ子や白き毛糸帽

落人の祠は小さし空つ風
緒方恵美

朝露や何か動いて牧草地
深澤範子

茶の花や表札いまも旧町名
長谷川一枝

柚子ひとつ貰ふつもりが二十ほど
佐藤清子

パンプスの響きも乾き冬の月
吉田林檎

ジェット機の爆音籠る冬の雲
松井洋子

猟銃音牛舎へ牛を追ひをれば
山内雪

焼きたてのベビーカステラ酉の市
箱守田鶴

風吹いて地蔵のつむり寒さうな
松井伸子
(風吹いて地蔵のつむの寒さうな)

並びたる祖父母の若く七五三
千明朋代

山茶花や雨戸を繰りて今日はじまる
梅田実代

冬晴や影のはみ出すかくれんぼ
飯田静
(冬晴や影のはみ出すかくれんぼう)

朴散るや女工哀史の峠路
奥田眞二

秋の昼カステラへ刃をゆつくりと
森山栄子
(カステラへ刃をゆつくりと秋の昼)

私は私主張しづかに石蕗の花
荒木百合子
(「私は斯う」主張しづかに石蕗の花)

将来と未来の違ひ銀杏散る
田中優美子
(「将来」と「未来」の違ひ銀杏散る)

旅先のスーパーに買ふ冬林檎
小山良枝

綿虫の行方受話器を持つたまま
小野雅子

かりがねや野末に遅き月出て
松井洋子

冬の雨池の形に発光す
板垣もと子
(冬の雨池の形に白光す)

篠笛のまにまに紅葉散りにけり
木邑杏
〈篠笛のまにまに紅葉散り行けり〉

 

 

◆互選

各人が選んだ五句のうち、一番の句(☆印)についてのコメントをいただいています。

■小山良枝 

柚子ひとつ貰ふつもりが二十ほど 清子
鯛焼きを割つて喧嘩の始まりぬ 林檎
パンプスの響きも乾き冬の月 林檎
チョコレート移動販売十二月 和代
☆冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
隠れたつもりでも、影で分かってしまうところが微笑ましいですね。子供たちの明るい声が聞こえてきそうです。


■飯田 静 選

哺乳瓶を放さぬ仔牛小鳥来る
朴散るや女工哀史の峠路 眞二
水鳥やしづかに進む私小説 良枝
職人は光を残し松手入 優美子
☆落人の祠は小さし空つ風 恵美
平家の落人でしょうか。人目を避けているために堂々と先祖を祀ることができない寂しさを感じます。


■鏡味味千代 選

凩や客ぞんざいに入り来る 松井洋子
職人は光を残し松手入 優美子
褒めらるることを嫌がり七五三 実代
街の灯の瞬き残る冬の朝 穐吉洋子
☆茶の花や表札いまも旧町名 一枝
昔は花を愛で、また自宅用の茶を採取するため、隣家との境界に茶の木を植えていたと聞きました。きっとそれは旧町名の頃。言葉にはしなくとも、家も昔ながらの建物であり、住んでいる方の様子も伺えます。でもきっとこの表札が変えられる時、茶の木も一緒になくなってしまうような、そんな危うさもあります。


■千明朋代 選

銀杏落葉今日といふ日を歩みたり 百花
秋の薔薇おつかれさまと声掛けて 一枝
ひそひそとひそひそひそと落葉散る 恵美
水鳥やしづかに進む私小説 良枝
☆いにしへのいしの暖炉は日を忘れ 良枝
かねがねさびしく思っていた使われない暖炉、こういう表現を見てとてもうれしくなりました。


■辻 敦丸 選

光悦寺しじま笹鳴き止みしかば 眞二
夜の雨いつしか霰屋根を打ち 紫峰人
冬の川一筋の意地貫きて 新芽
蝦蟇口に護符を忍ばせ神の留守 味千代
☆冬の海異国の文字を運び来て 味千代
船便、懐かしい言葉。冬の港には世界中からクリスマスの贈り物、カードが運ばれて来た。


■三好康夫 選

新蕎麦の喉の奥まで香りたり 真徳
小春日の電車に父と幼子と 雅子
冷まじや林武の絵具箱 依子
お返しと泥付き大根二本呉れ 一枝
☆りんご剥く妻の眼鏡の赤き縁 昭彦
赤が印象的、お元気な奥様の動きが見えるようです。


■森山栄子 選

小春日の電車に父と幼子と 雅子
神渡し湖を磨いてゆきにけり 良枝
父がゐて母ゐて熊手もつ子ゐて 眞二
冬日差す父の形見の顕微鏡 紳介
☆アラビアの街を見て来し月冴ゆる もと子
アンデルセンの「絵のない絵本」のように、月が人々の暮らしを眺めながら巡っている情景を思い浮かべました。月冴ゆるという季語とモスクの尖塔のイメージが響き合い、スケールの大きな一句と感じ入りました。


■小野雅子 選

ひと雨のあとの日ごとの柿落葉 恵美
帯解けば安堵の息や七五三 味千代
小夜時雨祇園白川巽橋 眞二
猟銃音牛舎へ牛を追ひをれば
☆落葉掻くまた掻くその日来るまでは 依子
その日が来るまでは生きなければならない。落葉掻くという日々の仕事を淡々とこなしていく姿に真実があると思いました。


■長谷川一枝 選

しぐるるやただいまと言ひ部屋灯す 林檎
加茂川の飛石渡る小春空
冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
綿虫の行方受話器を持ったまま 雅子
☆凩や客ぞんざいに入り来る 松井洋子
句を読んで、なるほどなそんなふうに入って来る様子にクスリとしました。


■藤江すみ江 選

加茂川の飛石渡る小春空
ことのほか山暮れ易し地酒酌む 良枝
蒲の絮弾けてよりのむくつけき あき
子犬の耳跳ねてもみぢのドッグラン 百合子
☆冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
幼い影にちがいありません 映像が 自然に浮かんでくる佳い句と思います。


■箱守田鶴 選

遠回りして柊の花の道 恵美
牛待たせベンチに寝たる案山子かな 百花
ポケットにあげると木の実差し込まれ 百花
退院の母に緋木瓜の帰り花 いま子
☆素うどんの湯気や勤労感謝の日 実代
質素な素うどん、 でも うどんを本当に味わうにはこれが一番でしょう。あつあつを食べながら元気に働けることを感謝する、まさに勤労感謝の日にぴったりの昼餉、と感じます。


■深澤範子 選

物置の木馬も時に日向ぼこ 伸子
空港に別れて一人雪もよひ 由布子
ゆで卵きれいに剥けて今朝の冬 一枝
ひとつづつ肩の荷下ろし冬仕度 優美子
☆おはやうと言へる幸せ今朝の冬 優美子
平凡な幸せを噛みしめている様子が、良く表れている句だと思いました。


■山田紳介 選

冷まじや林武の絵具箱 依子
哺乳瓶を放さぬ仔牛小鳥来る
水鳥やしづかに進む私小説 良枝
ほろほろと日がな山茶花零れけり いま子
☆深秋の誰にも会はぬ散歩かな 栄子
本当は会いたいのか、会いたくないのか。或はそのどちらでもあるのかも知れない。


■松井洋子 選

乗り合はす三つ子の白き毛糸帽 いま子
身ぬちより灯ともるやうに柿熟るる 百合子
神渡し湖を磨いてゆきにけり 良枝
職人は光を残し松手入 優美子
☆りんご剥く妻の眼鏡の赤き縁 昭彦
新婚家庭だろうか。間近から妻を眺めているその視線に愛情が溢れている。とても微笑ましい句。


■緒方恵美 選

紅葉狩寺の大門額となし
冬の川一筋の意地貫きて 新芽
寒菊の風は鞴の風のやう 伸子
黄昏の街へコートを翻し 雅子
☆街の灯の瞬き残る冬の朝 穐吉洋子
誰もが出会った事のある普遍的な日常を、さりげなく詩に昇華している。


■田中優美子 選

焼きたてのベビーカステラ酉の市 田鶴
冬日差す父の形見の顕微鏡 紳介
りんご剥く妻の眼鏡の赤き縁 昭彦
七五三ついでに母も褒められて 実代
☆褒めらるることを嫌がり七五三 実代
子ど私も、「かわいいね」などと言われると、からかわれている気がして無性に恥ずかしくなりそっぽを向くような子だった。しかし時が経てば、それすらも甘えることのできた、微笑ましい時分の思い出だったのだと思う。リアリティのある句は、記憶を呼び覚ますと同時に、そのときの気持ちを客観的に見つめさせてくれる。


■チボーしづ香 選

乗り合はす三つ子の白き毛糸帽 いま子
ポケットにあげると木の実差し込まれ 百花
柚子の苗大地に託し冬籠 伸子
古びたる文庫蔵裏柿たわわ 清子
☆空港に別れて一人雪もよひ 由布子
空港で一人見あげる空が雪模様と一人薄ら寒い様子が感じられる。


■黒木康仁 選

役を終へ足音を待つ冬田かな 新芽
冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
銀杏落葉今日といふ日を歩みたり 百花
風待つてゐても飛べぬぞ渡り鳥 優美子
☆鉄塔に絡みつきたる冬夕焼 松井洋子
冬の寒々とした鉄塔に冬の夕焼が絡みつくという表現に驚きがありました。


■矢澤真徳 選

大鳥居再建未だ七五三 穐吉洋子
冬ぬくし猫の守れる登り窯 松井洋子
ひとつづつ肩の荷下ろし冬仕度 優美子
焼きたてのベビーカステラ酉の市 田鶴
☆素うどんの湯気や勤労感謝の日 実代
素うどん、という言葉と、湯気と、勤労感謝の日、という言葉が、互いが互いの触媒となって、若々しさや、さらには希望まで溢れ出てくるような気がした。


■奥田眞二 選

椅子の皮張り替へ冬に入りにけり 良枝
草枯れて枯れて幾何学的模様 伸子
商店街てふ花道を七五三 実代
りんご剥く妻の眼鏡の赤き縁 昭彦
☆尾根歩くための青空小六月 あき
起伏の少ない尾根歩きは楽しいものです。それも冬の温かい晴れた日、この青空われのもの、尾根歩くため、の表現がお上手だと思います。


■中山亮成 選

子犬の耳跳ねてもみぢのドッグラン 百合子
冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
ポケットにあげると木の実差し込まれ 百花
焼きたてのベビーカステラ酉の市 田鶴
☆どんぐりを埋めて未来思うらし 栄子
子供のころ同じようなことをしたような。


■髙野新芽 選

銀杏落葉今日といふ日を歩みたり 百花
くれなづむ光紅葉をほどきゆく 優美子
冬の雨土の匂ひを呼び覚ます 味千代
冬の海異国の文字を運び来て 味千代
☆ねぶた来る武者は悪鬼を踏み潰し 亮成
ねぶた祭りの迫力と祭りの意味合いの両方が伝わってくる素敵な句だなと思いました。


■巫 依子 選

菊花展入場券を栞とす 一枝
冬日差す父の形見の顕微鏡 紳介
褒めらるることを嫌がり七五三 実代
底冷えの駅に一番星きれい 雅子
☆綿虫の水色となる近さまで 雅子
何処からともなく現れて宙を舞っている綿虫。白くボーッとした感じは、雪螢とも呼ばれる綿虫。でも、近づいた時、それは白ではなく仄かに青みがかっている。水色となる近さという表現が、言い得て妙。


■佐藤清子 選

冬日差す父の形見の顕微鏡 紳介
わだかまり水に流してカンナ咲く 範子
藁焼きの煙むらさき冬隣 敦丸
あとがきを終へしペン先十三夜 敦丸
☆柚子の苗大地に託し冬籠 伸子
鉢植えを地植えにしたのでしょうか。柚子への愛着が伝わってきます。柚子仕事も楽しみですね。私は前の住処に置いてきた柚子の木への思いが重なり愛おしく感じました。


■水田和代 選

ランドセル落葉を蹴つて楽しさう 由布子
哺乳瓶を放さぬ仔牛小鳥来る
猟銃音牛舎へ牛を追ひをれば
ひそひそとひそひそひそと落葉散る 恵美
☆何度でも立ち上がれとぞ冬落暉 雅子
思いどうりにいかないことがあるときも、冬の夕日を見ていて勇気づけられることがあります。


■梅田実代 選

自転車を連ね登校豊の秋 栄子
大いなる洗濯板よ秋の雲 有為子
冬日差す父の形見の顕微鏡 紳介
ひと雨のあとの日ごとの柿落葉 恵美
☆遠まはりして柊の花の道 恵美
柊のように目立たないけれども可憐な花のために遠回りする作者の心持ちに惹かれました。

 

■鎌田由布子 選

山茶花の生垣つづく京の町 いま子
冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
冬日差す父の形見の顕微鏡 紳介
白壁の旧家さざんか散り敷ける 和代
☆自転車を連ね登校豊の秋 栄子
長閑な通学風景が映画のようでした。


■牛島あき 選

黄昏の街へコートを翻し 雅子
柚子ひとつ貰ふつもりが二十ほど 清子
秋茜石の温みに翅を伏せ 亮成
空港に別れて一人雪もよひ 由布子
☆素うどんの湯気や勤労感謝の日 実代
「素うどん」という懐かしい言葉と、長くて難しい季語との組み合わせが、見事に決まっていると思います。


■荒木百合子 選

綿虫の水色となる近さまで 雅子
柚子ひとつ貰ふつもりが二十ほど 清子
父がゐて母ゐて熊手もつ子ゐて 眞二
藁焼きの煙むらさき冬隣 敦丸
☆シュトラウスの音符のごとく落葉舞ふ 真徳
昔、シュトラウスの子孫の方の指揮でワルツやポルカを聞くコンサートがあり、その指揮者の軽やかで優雅な身のこなしをこの句で思い出しました。


■宮内百花 選

職人は光を残し松手入 優美子
蜻蛉のふはりと浮きて光りたり 昭彦
褒めらるることを嫌がり七五三 実代
自転車を連ね登校豊の秋 栄子
☆焼きたてのベビーカステラ酉の市 田鶴
焼きたてのベビーカステラ。甘くて温かくてふわふわとしていて、幸せの色である黄色。それだけしか言っていないのに、酉の市の賑わいが見え聞こえてくるようです。


■鈴木紫峰人 選

もうこんなにこまっしゃくれて七五三 百合子
あとがきを終へしペン先十三夜 敦丸
たじろがぬ魚影や冬の五十鈴川 味千代
篠笛のまにまに紅葉散りにけり
☆パレットも遺作のひとつ冬灯 依子
画家の苦悩や熱情が残るパレット。冬灯が優しく包んでいる。このように詠まれて、画家は嬉しいだろうなとおもいました。


■吉田林檎 選

カーテンの房の豊かに冬館 良枝
パレットも遺作のひとつ冬灯 依子
冬めくやがさがさ畳む包装紙 いま子
柚子ひとつ貰ふつもりが二十ほど 清子
☆身ぬちより灯ともるやうに柿熟るる 百合子
熟した柿の色を内側から灯がともっていると感じた作者。「身ぬちより」で始まるから作者自身のことと思ったら柿のことだったという意外性とその見立ての説得力で心地よく読み終わります。


■小松有為子 選

寒風に出るなり曇る眼鏡かな チボーしづ香
錦なす楓紅葉の遅速かな もと子
秋の暮見知らぬ猫に懐かれて 松井洋子
温室の硝子磨かれ冬に入る 飯田静
☆パンプスの響きも乾き冬の月 林檎
寒い夜の乾く靴音が聞こえます。「き」の韻を踏むことの巧みさ。


■岡崎昭彦 選

母の家を辞したる朝の冬の虹 実代
一面の昨日と違ふ苅田かな 範子
フルートのやがて滑らか冬ぬくし 雅子
ひと雨のあとの日ごとの柿落葉 恵美
☆素うどんの湯気や勤労感謝の日 実代
「素うどん」の潔い感じがとても良いと思いました。


■山内雪 選

商店街てふ花道を七五三 実代
褒めらるることを嫌がり七五三 実代
冬ぬくし猫の守れる登り窯 松井洋子
あとがきを終へしペン先十三夜 敦丸
☆空港に別れて一人雪もよひ 由布子
空港とあるから、簡単には会えぬ人を見送ったのであろうか。季語がせつない。


■穐吉洋子 選

冬晴や影のはみ出すかくれんぼ 飯田静
月蝕や冬の空行く金の船 もと子
筥迫の今にも落ちさう七五三 田鶴
おはやうと言へる幸せ今朝の冬 優美子
☆朴散るや女工哀史の峠路 眞二
「あゝ野麦峠」を思い出します。朴の朽ちて行く様はまるで主人公「みね」を象徴したかの様です。


■板垣もと子 選

カーテンの房の豊かに冬館 良枝
ジェット機の爆音籠る冬の雲 松井洋子
鉄塔に絡みつきたる冬夕焼 松井洋子
綿虫の水色となる近さまで 雅子
☆尾根歩くための青空小六月 あき
小六月の青空を歩いているような感じがする。


■若狭いま子 選

八掛はマスタード色冬ぬくし 雅子
カーテンの房の豊かに冬館 良枝
パンプスの響きも乾き冬の月 林檎
ランドセル落葉を蹴つて楽しさう 由布子
☆自転車を連ね登校豊の秋 栄子
稔り田の広がる田園の道を学生が軽快にペダルを踏んで走り行く。通行人に会うとどちらからともなく挨拶を交わす。そのような朝は清々しい気分になれます。前途洋々の若人や実りの秋の風景が好きです。


■松井伸子 選

ゆで卵きれいに剥けて今朝の冬 一枝
遠まはりして柊の花の道 恵美
綿虫の水色となる近さまで 雅子
紅葉の木立ちの向こう郵便車 昭彦
あとがきを終へしペン先十三夜 敦丸
丁寧な作業のあとの解放感が十三夜とひびき合ってホッとします。


■板垣源蔵 選

黄昏の街へコートを翻し 雅子
朝風呂の湯やや熱く秋深し 昭彦
千歳飴ぎゅっと抱へて人力車 田鶴
秋茜石の温みに翅を伏せ 亮成
☆水鳥やしづかに進む私小説 良枝
ゆったりとした時間の流れとそれを思う存分楽しんでいる様子が伝わって来ました。


■長坂宏実 選

焼きたてのベビーカステラ酉の市 田鶴
黄昏の街へコートを翻し 雅子
ゆで卵きれいに剥けて今朝の冬 一枝
七五三ついでに母も褒められて 実代
☆鯛焼きを割つて喧嘩の始まりぬ 林檎
うまく半分に割れずに、大きい方が欲しいと喧嘩をする様子が微笑ましいです。

◆今月のワンポイント

「音読をしよう」

句帳に書き留めたことばをそのまま投句することはまれで、多くの場合は推敲をすることになります。助詞を変えたり、順番を入れ替えてみたり、ああでもないこうでもないとやっていると、どんどんわからなくなってくるものです。
そんなときは、音読をしてみるのがおすすめです。
例として、今回の入選句から抜き出してみます。

原句:ベランダの月光をハーモニカに集め

添削句:ベランダの月光集めハーモニカ

原句:飛石で渡る加茂川小春空

添削句:加茂川の飛石渡る小春空

いずれもまったく同じ内容ですが、声に出して読んでみるとその違いがおわかりになるかと思います。一方、特選句の

閻王の口中真赤冬紅葉

芋茎ゆで煮付酢の物炒め物

などは、音読するとリズムがよく、定型詩の良さが感じられる句です。
次回からはぜひ、音読をしてから投句してみてください。

松枝真理子