芽吹  馬場繭子 著

mebuki
ふらんす堂
2010年9月28日発行

屈託のない無邪気な第一句集は、
俳句が幸福の文芸であることを思い出させてくれる。
美しいもの、美味なるもの、気に入りのものに囲まれて俳句を楽しむ姿は、
読む者の心をも明るく満たしてくれるだろう。
西村和子 (帯文より)

春燈や巴里の寵児の絵の暗く
一掻きの青海亀の涼しさよ
咲き初めて小心ならず冬の薔薇
にごりなき血の色のとんぼうに遇ふ
ためいきも華やぎにけり投扇興
初句会西洋畏るるに足らず
そら豆の莢にムーアの括れかな
父の日や彼のライバル今も父
初雪の予感ぴりつと唇に
寒紅や後の心を引き締めむ(自選10句)

雪舞   金子笑子 著

yukimahi
角川書店
2010年9月23日発行

数へ日の本腰入れて雪の降る 笑子
老神温泉はなつかしく心安らぐ出湯である。
『雪舞』の作者笑子さんは、その老神を象徴するような人だと思う。
女将としての笑子さんにとって、雪はしたたかで、
あなどれぬ存在だろう。
しかし、一方ではその雪が、彼女に老神の風土に根ざした
多くの作品をもたらした。
行方克巳 (帯文より)

蛇神輿舁くといふより集りをり
板長の怒鳴つてをりぬ二日はや
初旅の夫の寝付きよきことよ
面白き程よく眠り風邪癒ゆる
数へ日の本腰入れて雪の降る
誰も居ぬ二階に音や雪の夜
お決まりのごとく四日の大雪よ
冴返る自問自答を繰り返し
あたたかや赤ちやん一人居るだけで
踊の輪立て直しつつ踊りけり (行方克巳 選)

震へるやうに  鈴木淑子著

huruheruyauni
ふらんす堂
2010年6月16日発行

二十代の本音と呟き。
幼なさの揺曳も、早熟な感慨も、みずみずしい感性も、ひたむきな思いも、
変身を待つおののきに震えている。
ひらかれた俳句の扉から飛びたった言葉のひとつひとつが眩しい句集。
西村和子 (帯文より)

夏空を駆け上がるやうにして別れ
赤ちやんの口もと美人小鳥来る
時雨るるやのつぺらぼうのガーゴイル
しやぼん玉噴き上げパレードの鯨
心臓の震へるやうに蝌蚪泳ぐ
母さん母さんとくつついて軽鳧の子
まつすぐになんかなれないバレンタイン
飛びたくて飛びたくてむささびの進化
寒夕焼こんなカクテルあつたかも
春埃仕舞ひきれないものばかり (自選10句)