窓下集 - 3月号同人作品 - 西村和子 選

旅に出ばやこの黄落の過ぎぬ間に
江口 井子
北風に共犯者めく二人かな
岩本 隼人
犬島の道はくねくね草の花
米澤 響子
雑踏を抜けて静謐納め句座
田久保 夕
片時雨止むを染屋の軒に待ち
中田 無麓
妬心掻き消さんと落葉踏みにけり
中野のはら
娘が活けて帰りしすすき月を待つ
金子しづ子
数へ日や紡ぐがごとく地上の灯
中川 純一
知らぬ店増えて元町クリスマス
高橋 桃衣
自愛してゐて不用意な湯ざめかな
前田比呂志

知音集 - 3月号雑詠作品 - 行方克巳 選

午後の日の傾き出して母の咳
高橋 桃衣
餡パンの空洞ぽつかり山眠る
深谷 桂介
風の宮静かに木の葉降らしけり
影山十二香
花野ゆくあの日も白のワンピース
吉田 林檎
瞑りて枯れゆくものと日を頒ち
大橋有美子
西行法師山家にひとり芋洗ふ
八木澤 節
木の葉髪母の鏡台古にけり
鈴木 庸子
文豪と人妻Aと石蕗の花
久保隆一郎
鴨どちの引き剥がさるる如く発ち
大塚 次郎
十二月大阪のビルやぼつたき
米澤 響子

紅茶の後で - 3月号知音集選後評 -行方克巳

午後の日の傾き出して母の咳

高橋 桃衣

 60歳を過ぎた頃からほとんどの人が父母の介護が勤めになってくる。かつては三世代四世代同居がめずらしくなかったから、きわめて自然のなりゆきで家族全員で年寄りの世話をしたり子供の面倒を見たりしていた。それが核家族化となった今、結婚して子供ができたりすると、今までしていた仕事を継続するのが大変な難事業ということになってきた。子供は見なければいけない、仕事は続けたいというジレンマに多くの女性が悩んできたのである。作者が心を配らなければいけないのは一人暮らしのお母さんのことー。体調がよくない時は少しでも日が翳って寒くなると、どうしても咳が出てくるのである。「傾き出して」にあっという間に日が沈んでしまう頼りない気持ちがよく表われている。

餡パンの空洞ぽつかり山眠る

深谷 桂介

 私もアンパンが大好きである。アンパン一個と牛乳があれば立派な食事だ。さて、そのアンパンにもずいぶん色々なタイプがある。その一つに、ふっくらとはしているが割ってみるとアンコの部分がパンの中にちんまりと座っているというタイプ。桂介さんは、そのスキ間を空洞と表現した。少しばかりオーバーな言い方ではあるが、なかなか的を射た表現であることは間違いない。山国へ向う電車の窓からすっかり冬の様相を呈している山々を眺めながらアンパンを食べている作者が目に浮かぶ。

瞑りて枯れゆくものと日を頒ち

大橋有美子

 冬枯れを急ぐ草木の中に座って目を閉じる。暖かな冬の日ざしがじんわりと体をつつむ。一葉また一葉と葉を落としながら冬木となってゆく樹々。そのすべての茎や葉から緑の色を失いつつ戦ぐ草々。じっと目を閉じていると自分がそれぞれの草木と時間を共にしているような気がしてくる。俳句を作るようになって私が最もよろこびとするのはこのような時間を体験することが多くなったことである。