窓下集 - 4月号同人作品 - 行方克巳 選

緋目高を朝夕数へ数違う
高橋 時枝
切株の芯のくれなゐ雪催
島田 藤江 
木の葉髪古りたるものに夫婦箸
中川 朝 
脳天の眠りたるまま去年今年
原田 章代
餅好きの男と靴好きの女
田中 久美子 
金銀の木の芽起こしの雨なりし
鈴木 廣子 
餅いくつ食ひしと自慢したるころ
竹本 是 
書きなづみをれば指先悴める
高橋 桃衣 
約束のひとりの欠けておでん鍋
津田 ひびき
かみさんの声甲高く寒に入る
志佐きはめ

知音集 - 4月号雑詠作品 - 西村和子 選

小林一汀さん 初句会穏しき名告なつかしく
島田 藤江
うつとりと紅差されをり春着の子
影山十二番
折鶴を展げし如く氷張る
大塚 次郎
そこそこに出で来重なり御慶の輪
小倉 京佳
酒よりも歌より話年忘
金子 笑子
冬紅葉木肌滴る血のごとし
岩本 隼人
白障子照れば笑まふよ伎芸天
江口 井子
巾着を開けては覗き春着の子
渡辺 友子
背を正し読むふるさとの師の賀状
板垣もと子
枯蓮その後を見むと訪ねけり
石川 花野

紅茶の後で - 4月号知音集選後評 -西村和子

初句会穏しき名告なつかしく

島田 藤江

 「小林一汀さん」とある前書とともに味わいたい。ひと月に何度も句会を共にした仲間である。初句会ともなれば名告もひときわ改まる。 その「穏(おだ)しき名告」がなつかしい、ということは、もはや聞くことが叶わなくなったということだ。
 この句を読んで、私は一汀さんの名告が耳に蘇るような思いがした。決して大きな声ではなかったが、「いってい」とゆっくり名告る声は、 その作品の格の高さにふさわしく落ちついて穏やかなものだった。名告によって一句は完成すると言っても過言ではない。句会の際の披講の時間は、選句の時見た句を、音韻で味わう時間だ。心静かに披講される作品を耳で味わう態度が身についていてこそ「穏しき名告」もできる。 得点を気にしたり、心ここにあらずといった態度で、ぼんやり聞き流していては、自分の句に気づかなかったり、あわてて「あっ」などと声を上げてから名告ったりすることになる。
 今は亡き一汀さんの、落ちついた名告を見習いたいものである。

うつとりと紅差されをり春着の子

影山十二番

 上五のゆるやかな調子を味わいたい。初めて春着を着た子であろうか。あるいは少女期になって、初めてお化粧を許された娘かも知れない。お母さんかお姉さんに、口紅をさしてもらっている。その表情を「うっとりと」と描いたことで春着の美しさもひき立つ。
 女の顔は不思議なもので、口紅を塗っただけで生き生きとし、ひきしまり、大人びる。この句の直後にこの子は鏡に見入ることだろう。そこには普段の顔とはちがう、別人のように美しい自分を見出すはずだ。華やかな春着に映える、あでやかな笑顔になるはずだ。この句は、そこまで言わず、紅をさされている場面だけを切り取って成功している。化粧をしてもらっている時の、自己陶酔の表情を見事に描き出している。

折鶴を展げし如く氷張る

大塚 次郎

 折鶴と言えば折り上った鶴を想像するが、この句の場合はそれを展げたような折り目、を想像させる。折鶴を作ったあとで、角がうまく合わなかったりした時、いったん折ったものを広げることがある。そんな時出来た紙の折り目は、直線ばかりで、皺ではない。しかもある部分かなり混み合っている。池や水たまりに張った氷の筋を、このように表現したのはおもしろい。折鶴は誰もが折ったことがあるから。又、多くの人がそれをもう一度広げて一枚の元の紙にした時の様を目にしているはずだ。